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【日本橋イズム】天女(まごころ)像は企業理念の象徴だった/日本橋三越本店の歴史あるアート

目次

日本橋の顔であり、日本初の百貨店として「伝統と革新」のもと常に時代をリードする

江戸時代から日本橋の顔として、長い歴史と伝統を持つ日本橋三越本店。その歴史は1673年、伊勢松坂商人・三井高利が、越後屋の屋号で呉服店を創業したことに始まります。

当時としては画期的な「現金安売り・掛値なし(定価販売)」や「切り売り(必要な分だけ売る)」を行い、庶民から圧倒的な支持を得ました。呉服事業の成功後、両替商として幕府の金融為替用達を担うなど、商標・金融の双方で江戸最大級の豪商へと成長し、後の三井財閥(三井グループ)の基礎を築きました。

その後、「伝統と革新」をモットーとして、現在に至るまで常に時代の先端をリードし続けてきた三越。その根底にはどのような理念やビジョンがあったのでしょうか、また最先端の意匠を取り入れた日本橋三越本店の建築や館内を彩るシンボリックかつ豪華なアートによる演出には、どのような想いが込められ、どんな効果をもたらしているのでしょうか。

日本橋三越本店のアートの核心に迫るべく、三越の本質的な価値づくりについてお伺いしながら、三越が取り組むアートの可能性を広げ、アートビジネスの新たな価値創造に挑戦する姿を、日本橋三越本店の美術担当・金子氏と三越コンテンポラリーギャラリーで個展も開催する、現代アーティストの藤崎氏にも特別にご参加いただき、大変興味深いお話をお聞かせいただきました。

左から 現代アーティスト 藤崎 了一氏
株式会社 三越伊勢丹 日本橋三越本店 営業統括部 第3営業部 営業部付マネージャー 金子 弘幸氏

日本橋三越本店の高い志と熱い想いが刻まれた数々のアートシンボル

――日本橋三越本店には、本館正面玄関でお客さまをお迎えする「ライオン像」をはじめ、館内装飾にも多くのアート作品が使われていますが、これらにはどのような意味や想いが込められているのでしょうか?

金子:三越は、1673年 呉服店「越後屋」として創業し、1904(明治37)年に日本で初めて「デパートメントストア宣言」を発し、その後日本初の百貨店としてその歴史を積み重ね、2024年には120周年を迎えました。

「ライオン像」は、三越百貨店の基礎を築いたとされる「デパートメントストア宣言」を行なった当時の支配人であった日比翁助が「三越は新たな百貨店業界のリーダーとなって業界を発展させ、その王者になる」という高い志を込めて「ライオン像」の製作に取り組みました。

ロンドンのトラファルガー広場にあるネルソン記念塔の下の4頭の獅子像がモデルとされ、英国の彫刻家メリフィールドが型どり、バルトンが鋳造したものです。完成までには3年もの歳月を要し、イギリスの彫刻界でも相当な話題となったと言われています。

そして1914(大正3)年、日本橋三越本店新館の完成に合わせて設置されました。その威風堂々と優雅に佇む姿は、今でも三越の気品と店格を象徴する存在としても多くの方々に親しまれています。

正面玄関でお客さまをお迎えする「ライオン像」

――その他にも、天女(まごころ)像やパイプオルガンなども有名ですね。

金子:天女像は、私たち従業員の間では「天女(まごころ)像」という呼び方で浸透しています。

この像は、三越のお客さまに対する基本理念「まごころ」をシンボリックに表現する像として、日本橋三越本店および三越グループの精神的な支柱ともいえる存在です。

三越創業50周年を記念して製作されたもので、製作にあたったのは名匠・佐藤玄々先生。京都の妙心寺内にあるアトリエで、多くのお弟子さんとともに「構想・下絵・原形・試作」という数々の工程を経ながら、完成までには約10年の歳月を要しました。

「瑞雲に包まれた天女が花芯に降り立つ瞬間の姿」をとらえた豪華絢爛な美しさは今なお健在で、いつの時代もお客様に対する変わらぬ「まごころ」の象徴として、いつも私たちの心の中で生き続けているものです。

本館1階中央ホールから吹抜け5階に届くように大きくそびえたつ天女(まごころ)像
本館1階中央ホールから吹抜け5階に届くように大きくそびえたつ天女(まごころ)像

三越のパイプオルガンは、1930(昭和5)年から90年以上もの長きにわたり、店内に重厚な音色を響かせてきた唯一無二の存在です。2023年より老朽化に伴う大規模な修復を行い、この先の100年も演奏を続けていけるよう、今でも演奏を行なっており多くの皆様に愉しんでいただいています。

このパイプオルガンは、アメリカで無声映画や演劇の伴奏用に作られた「シアターオルガン」に分類されます。鍵盤のある演奏台と、852本のパイプが配置されている左右のパイプ室を合わせると幅は8.2メートルにも及び、1台でオーケストラのような演奏ができるのが特徴です。

当時、近代化を推進していた日本において、音楽に触れる愉しみや音楽のある豊かな暮らしなど、文化芸術の水準を高めることに貢献したいという強い想いから導入されたものです。

現在も定期的に演奏されているパイプオルガン

本物・本質にこだわり抜いたアートだから、時代を越えて人を感動させる真の力がある

――これほどまでに超一流のアーティストを起用し、さらに長い年月をかけてアートにこだわり抜く理由をお聞かせいただけますでしょうか。

金子: 三越は、1904年に高い志を掲げて「デパートメントストア宣言」を行いましたが、そのわずか3年後の1907年に日本橋三越本店の美術部は「新美術部」(当時)として設立されました。まだ、それこそ日本は近代化の道をやっと歩み始めたばかりで、もちろん美術館なども存在しなかった時代です。

しかし、当時からすでに三越では「本物・本質」にこだわり、日本における豊かな文化芸術を育てていくことを非常に大切に考えてきました。なぜなら、時代が変わっても人の心を動かすような強い感動や心を豊かにする作品の持つ真の力は、本物の価値を持つ作品からしか生まれてこないからです。

本物・本質的な価値をもつ美術作品に触れることで、日本の文化芸術の大きな華を咲かせ、人々の暮らしを、人生を豊かにしていきたいという強い想いが、私たちの根底には脈々と流れており、我々三越美術部の変わらぬDNAとなっているのです。

三越は、アートギャラリーとして110年以上の歴史があります。これまで横山大観、藤田嗣治(レオナール・フジタ)、濱田庄司など日本の美術史を彩った数々の巨匠の作品をはじめ、日本画・洋画・工芸・彫刻・現代アートなど、文化勲章作家や重要無形文化財(人間国宝)から若手作家まで、幅広く作品をご紹介してきました。

これから100年先も受け継がれてゆくような、本物のアートを取り扱っていくことが、我々の使命であると考えています。

「百貨店業」から「個客業」へ
アートと人の関係が変わり、アートは、街やオフィス、社会へ大きく広がっていく

――藤崎さんは、現代におけるアートの存在や人とアートの関係は、どのように変わってきていると感じていらっしゃいますか。

藤崎:これまでアートは、どこか特別な場所や与えられた環境の中で見るものという固定概念があったと思いますが、今や、アートと人の関係が自由となり、街やオフィス、社会のいろいろな場所にどんどんアートが広がってきていると感じています。

最近の私のプロジェクトの中でも、こんな経験がありました。
場所は、ちょうど日本橋で空きテナントが出たビルのフロアです。そこで行われたのが、一定期間の滞在型によるアートプロジェクトです。少し前までオフィスや店舗で活用されていたビルの空きフロアにおいてライブでアート作品を作り上げていくのですが、おもしろかったのは、作品を制作中に道行くいろいろな人が声をかけてくれたり、会話をする機会が増えていったことです。

アートの製作現場が、いつの間にかコミュニケーションと交流の場に変わっていったのです。中には日本橋の地域の方々もおり、街の話をしたり、どんな考えでアートを作っているのか質問されたり、こちらも刺激を受けて表現の発想やものの見方に影響を受けたりすることもありました。

このように、コミュニティの中で他者と関わり合い、インスパイアされながら作品化していく、そのアートが生まれるプロセスも大事な意義のある作品の一部と捉えるような動きが強まっているように感じています。

金子:私たち日本橋三越本店でも、店舗ごとの個性を大事にしながら、その土地の伝統と歴史、特性などを踏まえた店舗展開を行なっています。江戸時代から日本の商業、物流、文化芸術、金融などの中心地であった日本橋では、三越が呉服業から百貨店に転換して新たな挑戦を行なったように「伝統と革新」を合言葉に、日本橋の個性を大事にしながら、再開発が進むここ日本橋で新たなチャレンジを行おうとしています。

それを一言で言えば、『「百貨店業」から「個客業」への挑戦!』です

百貨店業という発想のままですと、どうしても“館”の中だけで何かビジネスを行おうと考えがちです。それを「顧客起点」の視点から見直して、百貨店だけでなく旅行業、不動産、金融など多くの事業を手掛けるグループシナジーを活かしてホールディングス全体で、お客様のニーズに先駆ける新たな価値を創造していこうという取り組みを推進しています。

私たちも“館”を飛び出して、変わりゆく日本橋の魅力も再発見しながら、アートの価値を高めるために、街やオフィスをはじめとするさまざまな場との共創を図っていきます。

例えば、日本橋の再開発でビルが新しくなると、大きなオフィスや商業需要が生まれますが、実際のプロジェクトとして、企業の経営者の方々とオフィスプロジェクトを進める中で、アートにより企業理念の可視化や理解浸透を支援するプロジェクトなどを積極的に推進しています。

藤崎:私が先ほど申し上げた「滞在型」でのオフィスアートプロジェクトなどもおもしろそうですね。アーティストが一方的に作品を提供するだけでなく、従業員の方達と一緒に作り上げていく。製作しながら従業員の人たちと会社の未来像を語ったり、こんな仕事をしてみたいと言った話などから、触発されてアート表現が変わったりするかもしれません。従業員の方も自分たちの手で会社の未来をいっしょに作っていくという参加意識や一体感などが高まり、エンゲージメントやモチベーション向上にも繋がりやすくなりますね!

アートの力とその可能性を広げるプロセスの共有、従業員の一人ひとりが持つ想いが、そこに加わればアートはさらに大きな力を発揮すると思います!

後編へ続く

続きは、次回後編をお楽しみに!

<インタビュー協力>
会社名:株式会社三越伊勢丹
住所:東京都新宿区新宿三丁目14番1号
撮影場所:日本橋三越本店
取材協力(アーティスト):藤崎 了一


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