品川駅周辺の近年の発展は目を見張るようです。
1998年の品川インターシティの完成から始まり、その後の東海道新幹線の品川駅開業などにより、日本のテック企業が次々と品川にオフィスを構えるようになりました。
また、品川駅高輪口や高輪ゲートウェイ周辺では再開発が次々と動き出し、近い将来にはリニア中央新幹線の開業により品川の持つポテンシャルはますます向上する見込みです。
まず前編では品川が発展した歴史的背景と品川でのエリアマネジメントの取組みを紹介します。
品川に高層ビルができるまで
江戸幕府を開いた徳川家康は五街道をつくり、そのうちの一つに江戸から京都までをつないだ「東海道」を整備しました。休憩所として53か所の「宿(しゅく)」を設置し、第1番目の「宿」が品川であり、いわば江戸の玄関口といえる存在でした。
明治維新後には、鉄道も開通し、品川駅もできましたが、駅と海は隣接しており、明治以降から徐々に埋め立てて現在の地形が形成されてきました。しかし、30年くらい前までは駅の規模も小さく、特に港南口に関してはビジネス街とは程遠いイメージの街だったのです。
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品川インターシティの開発
当時、雨が降ると雨漏りがする地下通路を出ると食肉市場があり、現在のようにオフィスビルが立ち並ぶ光景はまったく想像できないものでした。
品川が大きく変貌したきっかけは1984年に、興和不動産(現日鉄興和不動産)が旧国鉄品川駅東口貨物ヤード跡を取得したことから始まります。品川駅東口にあった旧国鉄の操車場跡地の再開発プロジェクトが本格的に始動したのです。
興和不動産・住友生命・大林組の3者が事業者となり開発を推進、1998年に品川駅港南口に品川インターシティが完成しました。当時、事業者は品川駅の東西をつなぐ自由通路「レインボーロード」も合わせて整備し、寄付・提供しています。
その後の品川の発展は目覚ましく、2003年には東海道新幹線の新駅として品川駅が開業しました。さらに隣接する品川グランドコモンズや2004年には京王品川ビルなどのオフィスビルが一気に完成しています。
その後も2006年に完成したソニー本社ビル、2015年開業の品川シーズンテラスなどと多くの再開発は進んだことにより、品川駅港南口の風景は一変し、品川地区全体の街の価値を一挙にあげる成果を得たのです。
品川は今や世界への窓、都心と地方を結ぶ役割を持つ
新幹線開業後は、駅周辺のオフィスには、大阪や名古屋に拠点を持つ、ものづくりやメーカー系企業が多数入居するエリアに生まれ変わっています。
さらに現在でも品川をはじめ、高輪ゲートウェイ、泉岳寺駅、田町駅エリアなどで引き続き再開発が展開され、今後羽田空港のさらなる国際化や、品川駅~名古屋駅間でリニア中央新幹線の開通が予定されるなど、発展が期待されている地域です。
今や品川は東京と地方をつなぐエリアであり、日本から世界へと飛び出す玄関口であるポテンシャルの高い機能を持っています。
日鉄興和不動産は、かねてから賃貸事業本部内にエリアマネジメント室(現エリアマネジメント部)を設置、品川インターシティを中心とした品川全体のエリアマネジメントに注力し、街のブラッシュアップを図っています。
ちょうど今年2023年は、品川インターシティ竣工後から計算すると25周年、東海道新幹線品川駅の開業では20周年で大きな節目の年に当たります。
そこで品川の街全体で盛り上げていこうという機運が高まっているのです。それではこの品川では具体的にどのようなエリアマネジメントを展開されているのかを見てみましょう。
品川でのネットワークづくりを強化
企業がオフィスを選択する際、エリアの持つイメージとブランディングへの関心が高く、新卒の就活生は、「自分らしく働ける場」を求め、就職活動を行っています。
特にコロナ禍では急速にウェブ会議が進んだものの、社内外のコミュニケーションに弊害も生まれ、各社は事業拡大を進めようとしても、容易ではない点が悩みの種です。
そこで品川でのエリアマネジメントの目的の一つに、コミュニティをつくり、社外のネットワークづくりを進め、事業拡大のサポートを行っています。特に品川には注目度の高い、ソフトウェア・ハードウェア両面でのテック企業が多いため、街の価値向上観点でこれをどう活かしていくかが大きなテーマといえます。
「品川をホームタウンの街に」
日鉄興和不動産のエリアマネジメント部では、品川にオフィスを構える企業にとって、「ホームタウンとして思っていただける街」を目指しています。
そこで重要なことは街で行われているイベントなどの取り組みは「自分事」に捉えてもらえる関係性の構築を進めており、次の4つの軸を立て、品川のブランディングを図っています。
1.人が集まり、活気がある街
品川エリアの定例行事となりつつある、クラフトビールイベント「大江戸ビール祭り」などを開催し、毎回2万人程度が集まっています。こうした大規模イベントだけではなく、10人ほどが集まるマイクロイベントを定期的に開催し、お互いが持つ悩みを共有することでコミュニティ形成に役立てています。
小イベントの具体的な事例では「女性のキャリア形成」をテーマに、身近な女性を講師に招き、育児と仕事を両立するために2拠点生活を行っている事例などの情報を共有しています。話の内容は、「自分事」として共感できる話が多く、参加者からは、「品川に来れば、自身のキャリア形成にプラスに働く話が直に味わえる」との声が上がっています
2.品川にいることが誇れる街
2006年に品川港南を本拠地として発足した日本のスポーツ・文化の育成と発展を目的に設立された総合スポーツ・文化団体「品川カルチャークラブ」と連携しています。
たとえば、サッカーチームの川崎フロンターレの存在が川崎市民のアイデンティティを高めていることと同様に、「共通の応援チームを持つこと」でワーカーや住民も共通のネットワークができることを期待しているとのことです。
3.イノベーションを生むネットワークが築ける街
品川でテクノロジー系企業の集積をこれまで以上に進め、品川のブランディングに活かし、賃貸を支援する業務につなげていく方針です。
品川にいれば面白い人に出会える。そんなイメージを構築するために、テック関係で興味深い情報や技術が容易に入ってくるネットワークが築ける環境を整備する方針です。
4.企業の質を高められる街
SDGs(持続可能な開発目標)、CSR(企業の社会的責任)、人材育成(リクルート)サポートは個社で対応するにはいずれもハードルが高い課題です。
地元行政・地域教育機関・NPO団体と連携し、企業の質を高める活動をエリアマネジメントによりサポートしています。
世界で戦える起業家を支援
2020年にはエリアの活力を生み、起業家の育成や、新しいビジネスを支援する施設「SPROUND(スプラウンド)」を品川インターシティの22階に開設し、「インキュベーション」構想の実現に踏み出しました。今や卒業企業も含め、30社以上のスタートアップ企業が利用しています。
「単なる場所の提供だけではなく、企業の成長のサポートに踏み込んでいます。私も含めて常駐メンバーもおり、ユーザー同士のコミュニティを活性化や、最新の情報を共有することをサポートする事で「世界で戦える企業を品川から輩出する」といったコンセプトの実現を目指しています」(日鉄興和不動産賃貸事業本部エリアマネジメント部 金谷貴央氏)
最新テクノロジーイベントの拡大も
ノベーションを起こすイベントにも注目が集まりました。⽇鉄興和不動産が主導する実行委員会は2023年3月22~24日の3日間、品川インターシティセントラルガーデンで最新テクノロジーの体験イベント「SHINAGAWA TECH SHOWCASE」を開催しました。
屋内アトリウム・屋外広場を会場に、世界的大企業や将来性豊かなスタートアップの持つ最新技術の展示ブースが展開され、各ブースでは、ロボティクスから画像解析、 VR・ ARなど世界の最先端の技術を体験できました。
「一般的な展示会が行うような販売促進が目的ではなく、研究者や技術者同士の情報交流の場を提供するのが目的です。あえてクラフトビールを販売するスペースを大きく確保することで、ビール片手に未来の技術についてディスカッションが埋まれる環境を整えました。また、昨今話題のパウダー状の食用コオロギや陸上畜養で育ったウニも楽しめるキッチンカーも用意する事で、フードブースも最新テクノロジーを活用したものとしました。」と金谷さん。
数年内には品川インターシティだけではなく、周辺エリアを巻き込みながら品川のアイデンティティとなるようなイベントに拡大することを目指しています。
「我々デベロッパーが場所を用意し、出展者をお招きしているのではなく、我々の企画に賛同いただける方々に集まってもらい、それぞれが役割を担う実行委員会形式にすることでイベントの成功もさることながら、出展者同士の関係がより深まったと思います」(金谷さん)
品川におけるエリアマネジメントの意義
街の開発は時としてハード面に焦点があてられがちですが、エリアマネジメントのようなソフト面の手法を活用し、ブランディングを向上することも大切なことです。
そして街はデベロッパー単体の奮闘だけではなく、街に住まわれているワーカーや住民すべてが「自分事」としてとらえて、日々考え、ホームタウンとして意識していくことで街は大きく発展することが大きな学びでした。
前編ではエリアマネジメントというソフト面の観点から品川の価値向上の取組みをまとめましたが、品川の進化はまだまだ続きます。後編では品川や高輪ゲートウェイなどの再開発の動向リポートします。
【取材協力】
日鉄興和不動産株式会社
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