Leader’s Voice「心の豊かさ」に挑戦する【榮太樓總本鋪】

創業200年を超える日本橋の老舗和菓子屋・榮太樓總本鋪様。
時代を超えて多くの人々に愛されてきた本物の味は、どのように生まれてきたのか。

榮太樓は「伝統はイノベーションの連続」として、伝統を守りながらも和菓子に新たな価値を創造する商品開発に注力してきたブランド戦略を駆使して挑戦を続けています。

次の200年に向けて挑戦し続ける榮太樓について、代表取締役社長である細田将己氏にお伺いしました!

目次

江戸の中心・日本橋に屋台で進出
独創的な金鍔でニーズに応え、たちまち大ヒット商品へ

――2018年に創業200周年を迎えられ、時代を超えて多くの方から愛される榮太樓ブランドですが、創業時にはどのような歴史があったのでしょうか。

細田:現在の榮太樓總本鋪につながる最初の礎を築いたのは、1818(文政元)年、菓子商を営んでいた細田徳兵衛が二人の孫を連れて江戸に出府し、その後、徳兵衛の曾孫にあたる3代目細田安兵衛(幼名栄太郎)が、日本橋の袂に屋台を開いたことから始まります。

当時、江戸は人口100万人を超える世界でも有数の巨大都市であり、その経済、商業、食文化の中心地であった日本橋には、全国から豊富な海産物が集まる魚河岸があり、その周辺には多くの屋台村が広がり、いつも活気にあふれ沢山の人で賑わっていました。

そこで、お蕎麦屋や天ぷら屋などの屋台が立ち並ぶ中、栄太郎は「金鍔の屋台」を出したのです。

当時、江戸では、金鍔は一番人気のお菓子だったそうです。そこで、栄太郎はお客様のニーズを掴むべく、極限まで包皮を薄くする技術を探求し、たっぷりと餡子が詰まった金鍔を香りの良いごま油でその場で焼き上げ熱々の状態で金鍔を提供したのです。

皮は透けるほど薄く、小豆などの原材料にもこだわり、餡のおいしさを最大限引き出す製法を用いた金鍔はたちまち人気となりました。

令和の今もなお愛され続ける金鍔

例えば、皆さんもたい焼きなどは尻尾までしっかりと餡子が入ったものを食べたいですよね。つまり、栄太郎は「日本橋に集まる魚河岸の商人やお客様のニーズに応える金鍔とは何か」を考え、それを実現するために、包皮を極限まで薄くするという独自の高度な技術と餡子の美味しさを引き出す努力を重ねました。

栄太郎が焼きたてで提供する「大きくて、甘くて、美味しい」金鍔は、たちまち魚河岸の商人や軽子たちの評判を呼び、その噂は江戸中に広まり大ヒットとなったのです。

やがて、屋台で築いた財をもとに1857(安政4)年、旧名日本橋西河岸町(現在の榮太樓ビルの地)に独立の店舗を構え、自らの幼名栄太郎にちなんで屋号を「榮太樓」と名付けました。こうして、榮太樓の歴史が幕を開けたのです。

今思えば、榮太樓には「常にお客様のいるところで、お客様が求めるものに寄り添いながら商売を続けてきた」という歴史があると思います。餡子がたっぷりで腹持ちの良い金鍔は人々のニーズに合い、初代・栄太郎の人柄も町の人から愛されたことが、最初の榮太樓の強みとなりました。その後に、200年以上続く現在に至る原点であったと思います。

伝統はイノベーションの連続!
デパ地下のルーツである日本初の食品名店街の設立に尽力し、多店舗展開を成功させ大きく成長

――生活者発想やユーザー起点といったビジネス発想をすでに取り入れていたということですが、その後の榮太樓ブランドはどのように発展していったのでしょうか。

細田:その後、初代・栄太郎は、その才覚を遺憾なく発揮し、現在の看板商品である「梅ぼ志飴」や甘納豆の元祖である「甘名納糖」「玉だれ」などを創製しました。戦前は、榮太樓總本鋪が東京繁盛菓子屋番付に大関として度々掲載されるなど、誰もが知る東京随一の繁盛店として認知される存在となりました。

しかし、戦時中にはやはり苦難の時代もありました。東京大空襲で日本橋の店舗・工場が焼失してしまったのです。原料も手に入らず、職人も減る中、焼け野原となった店舗跡で従業員と共に失意に暮れ、事業継続も危ぶまれる状況でした。

そんな苦境の中、私の祖父が「何とか店を復活させたい。榮太樓を再興させる!」と強い意志をもって立ち上がりました。この祖父が大変なアイデアマンで、老舗仲間が集まった席で老舗店みんなが揃って店を出せる場をつくろうと提言したのです。

1951(昭和26)年には、日本初の食品名店街で、現在のデパ地下のルーツでもある「東急東横のれん街」の設立に大きく尽力しました。戦後日本が急速に復興する中、新しい時代をリードした百貨店は、復興や豊かさのシンボルともなり、全国各地の百貨店で食品名店街が次々と生まれていきました。

何でも美味しいものが揃う名店街は大ヒットし、榮太樓は全国の百貨店に次々と進出することで多店舗展開を成功させ、目覚ましい発展を遂げていったのです。
日本橋の屋台から、路面店、そして全国各地の名店街での多店舗展開の規模拡大へと、時代のニーズに応えながら、企業も榮太樓ブランドも大きく成長していったのです。

榮太樓ブランドのDNAを継承しながら、常に時代のニーズに応じた、新たなブランド価値を吹き込む

――細田様が社長に就任されてからはどのような成長戦略を考えていますか?

細田:私の父の代になって、バブル崩壊後は百貨店ビジネスも打撃を受け、格式の高い贈答品のギフト市場も縮小傾向にありましたが、お菓子の需要はまだあったため百貨店に加え一般流通などのチャネル開拓を進めました。

飴という日持ちのする商品もあったため、流通向けの商品を開発するとともに、「あの榮太樓がスーパーでもお買い求めできるようになりました」といった切り口で需要を開拓していきました。「しょうがはちみつのど飴」という商品を、スーパーやコンビニなどで見かけたことはないでしょうか。これは、流通向けの人気商品の一つです。

株式会社 榮太樓總本鋪HPより引用

――たしかによくスーパーで見かけます!榮太樓總本鋪にはさまざまなお菓子があるんですね。

細田:私が榮太樓總本鋪の社長に就任したのは2023年4月ですが、「伝統商品・新しい商品」「百貨店向け・流通向け」といったベクトルが全く違うものを同時に対応している稀な企業で、現在のブランド戦略では5つのブランドの統合戦略を推進しています。長い歴史の中で培ってきた菓子作りの技術を、今の時代に合わせてアレンジする切り口から生まれたブランドを展開しています。

榮太樓總本鋪ブランド

伝統商品・百貨店向けに「榮太樓飴」や「金鍔」などを展開

にほんばし えいたろう

おやつ感覚で気軽に楽しむことができる

あめや えいたろう

女性向けに見ても楽しめる宝石のように美しく輝く飴のシリーズ

からだにえいたろう

ヘルシー志向のブランドで、ドラッグストアや調剤薬局などにも展開

東京ピーセン

懐かしい東京銘菓の定番を復刻

――新しいニーズに応えながらも、歴史あるお菓子を守っているんですね。

細田:榮太樓總本鋪ブランドがお父さんだとしたら、新たなブランドはいわばその子供たち。同じ榮太樓のDNAを持ちながら、それぞれが時代のニーズに応じた新たな価値を生み出すことで、歴史ある伝統的な榮太樓ブランドにも新たな活力と魅力を与えており、時代に応じたブランド価値を高めることで、榮太樓ブランドにさらに磨きをかけながら未来につないでいくことが、私の使命だと考えています。

他にも、流通チャネルについては、高速道路のSA、駅、空港、海外などニーズに応じた商品展開とともに新たなチャネル開拓にもチャレンジしています。また、ビジネスだけではなく、BtoBビジネスにも取り組んでいます。例えば、榮太樓の生ドラ焼きでは餡子や黒蜜などの原料提供と味の監修をし、ブランドライセンスを提供して、コンビニでの全国展開を行っています。

「温故知新」の精神を大切にしながら、新たな社是「心の豊かさに挑戦する榮太樓」を制定

――未来に向けて200周年プロジェクトでは、新たな社是も制定されたそうですね。

細田:そうですね。次の200年のスタートを切るために社是も新たに「心の豊かさに挑戦する榮太樓」としました。

私たちには、今でも変わらずに伝統的な熟練の技術を守り続け、本物の味を作り続けてきたこだわりがあります。当社では「温故知新」という言葉がよく使われてきましたが、こういったDNAは変えることなく、伝統的な価値を守りながらも、時代に先駆けてその価値に新たな価値を見出していく。また、未来に向けた社会ニーズや社会課題といった視点からも社会に貢献する企業でありたい。
本当に美味しいものは人々の心を豊かにしてくれ、美味しいお菓子を食べると笑顔が生まれます。お菓子のポテンシャルは、まだまだ広がっていくと確信しています。

――社内で「心の豊かさに挑戦する榮太樓」という社是が浸透してきたと実感したことはありますか?

細田:社内でも『自分が行っている仕事が「心の豊かさ」や「豊かな社会」につながるものなのか』といった視点を持ちながら仕事に取り組む人が増えたと感じています。
例えば、先日「からだにえいたろう」ブランドから「とろみ飴」という新商品が発売されました。
これは、高齢者などが飴を喉に詰まらせるということが起きているという社会課題に対して、若手メンバーが企画した商品で、飲み込む力が弱まり喫食に不安を感じている方にも、喉に詰まらないようにするために工夫された液体状の榮太樓飴です。硬い飴を食べることに不安で「昔よく食べていた榮太樓飴をもう一度食べたい」といったお客様の声にもお応えしたいと企画されました。

江戸時代から続く日本の食文化を伝え続けてきた身としてこの食文化を広げ後世に繋いでいくためには、社員が新たな社是に共鳴し同じベクトルと価値観で良い仕事をして物心とともに豊かになっていくのが大切だと考えています。

すでに江戸時代から行われていた
榮太樓に根付くサステナブルの精神と取り組み

――榮太樓は早くからSDGsにも熱心に取り組まれているそうですね。

細田:榮太樓總本鋪が創業した1818(文政元)年、江戸の世は5R(リデュース・リユース・リサイクル・リペア・リターン)が日常習慣として根づくサステナブルな社会だったと言われています。私たち菓子屋にとりましても、原料として使われる小豆、米、砂糖などは現代よりもはるかに貴重なものでした。そのすべてを無駄にすることなくお菓子に仕上げることは当たり前のことです。
令和の今、私たちはSDGsへの取組みとして下記を目標として掲げています。

農業生産者との持続可能な取り組み

品質の高い原材料の作り手である農業生産者との繋がりを大切にし、その想いをお客様に届けることが重要だと考えています。そのために良い原材料を高値で買い取り、生産者を守ることが循環型社会に繋がっていきます。
例えば、当社で使用されるもち米(マンゲツモチ) の多くを生産している契約農家では、農薬の使用を抑えているためそれを育てる土壌、集まる生き物、水といった自然環境を壊すことなく、また人の体にも害のない安心・安全なもち米を作ることができます。さらに、田んぼの一部をお借りして農家の指導のもと当社社員が毎年手作業で田植えから収穫までを体験学習します。農家の方たちとの交流を通し社員の学びにもなり、同時に農家の方たちの生産意欲の向上にもつながる毎年恒例の取組みとなっています。

フードロスの削減並びに未利用資源の有効活用

例えば、小豆の煮汁に溶け出すポリフェノールをパウダー化して再利用したり、廃棄する飴をバイオマス燃料の原料として活用するなど、食品のアップサイクルや製造工程、販売店でのフードロス削減に取り組んでいます。

和菓子を介した社会貢献活動

被災地や養護施設、こども食堂などへの和菓子寄付活動を行なっています。本物の餡子の味を小さな子供たちにも味わってもらいたく、楽しみに待っている子供たちとの豊かな交流の場にもなっています。最近では、社会貢献の支援団体と協力してクラウドファンディングを活用しながら、この活動を全国により広げるよう取り組んでいます。

日本橋から世界の榮太樓へ

――最後に、榮太樓ブランドが目指す未来の姿や夢を教えてください。

細田:まずは、「日本橋のお菓子といえば榮太樓」になることです。

江戸の中心・日本橋で生まれ育ってきた企業として、日本を代表する多くの食文化が生まれたこの地を代表する和菓子屋であり続け、その可能性や新たな価値を追求していく。
本店を構える日本橋は今、大規模な再開発のさなか創業200周年事業の一環で、それまでやや格式張っていた本店をカジュアルで誰でも気軽に入りやすいデザインにリニューアルしたのも、街の変化や人々のライフスタイルの変化に合わせていくためです。

また、本店のリニューアル時にカフェで焼きたての金鍔が食べられるメニューを入れました。200年ほど前に初代・栄太郎の屋台で金鍔を食べていた江戸の人々と同じ味を令和でも味わえるのです!

本店に併設されているイートインスペース

もうひとつの夢は、「榮太樓の飴を世界の飴にする」ことです。

私自身も世界を歩き回り、ありとあらゆる飴(キャンディ)を口にしてきました。海外でお菓子の贈り物といえば、チョコレートが主流ですが、飴(キャンディ)は世界のどこに行ってもあり、それだけ身近なお菓子とも言えます。しかし、残念ながらほとんどが添加物を多く含んでいるのです。一方で、榮太樓の飴は「添加物を最小限に抑え、天然素材だけでできる限り作られた飴」です。この価値を世界の人に伝えたい、本当に美味しい飴を味わってもらいたいと強く思っています。

そこで、今後の世界展開をいろいろ考えています。まず、マーケティング活動の一環としてニューヨークの「MUJI」のお店に榮太樓の飴を置いてもらったところ、大変好評でものすごく売れたそうです。今後の新たな展開も検討中です。

「味は記憶」ですので、一度食べて美味しいものはなかなか忘れられません。榮太樓の本物の飴の味を世界中の人に知ってもらい、世界のスタンダードにしていくことも将来の夢のひとつです!

編集後記 インタビューを終えて

インタビュー後にさっそく金鍔を買って帰りました。驚いたのはその値段、なんと税込270円!(※2024年10月時点)。こんなにお手頃価格なのに、餡子がたっぷりと入った金鍔はやはりとても美味しく「この味が200年以上受け継がれているのか……」と榮太樓總本鋪の技術力と企業努力に改めて感動しました。
新しい挑戦をしながらも、受け継ぐべきことはしっかりと守り後世に繋いでいく。それを実現できているのは、細田様をはじめとした榮太樓總本鋪で働く方々が「心の豊かさに挑戦する榮太樓」という社是に共感し体現しているからこそだと感じました。

細田様には日本橋の魅力についてもインタビューさせていただきました。ぜひ併せてご覧ください。

https://hataraku.seiwab.co.jp/article241122/


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