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前編【株式会社ニコン 本社/イノベーションセンター】 ゆかりの地への回帰が生んだ、シナジーと開放感──COLプロジェクトが描いた本社移転の全貌

精密・光学機器の世界的メーカー、株式会社ニコン様。同社は2024年、1918年以来ゆかりの地である東京・品川区西大井に本社/イノベーションセンターを建設し、本社機能を東京・港区港南の旧本社から移転するとともに、関東圏各地の工場・拠点に点在していたR&D部門を一堂に集約しました。

「COL(City of Light)プロジェクト」と名づけられたこの一大移転プロジェクトは、2017年の構想開始から約7年をかけて実現。グループアドレスやオープンエリアを組み合わせた開放的なオフィスは、部門を超えたコミュニケーション、およびイノベーションの創出を狙って作りこまれました。

今回は、プロジェクトメンバーであった経営管理本部のお三方に、移転の背景から設計思想、移転後2年間の変化までを余すところなくお聞きしました!

写真左から 株式会社ニコン 経営管理本部 総務部長 鈴木 将史氏株式会社ニコン 経営管理本部 工務管理部長 六日市 清尊氏/株式会社ニコン 経営管理本部付 認定ファシリティマネージャー(CFMJ) 豊田 陽介氏

目次

3つのコンセプトが示す、旧本社の課題

――本日はよろしくお願いします。まず、本社建設に至った背景とコンセプトをお聞かせください。

六日市氏:
本社建設にあたって、私たちは3つのコンセプトを掲げました。1つ目は企画部門とR&D部門の機能集約。2つ目が従業員のエンゲージメントとコミュニケーションの醸成。3つ目が環境配慮型オフィスとすることで社会課題の解決と地域への共生を果たすこと、この3つです。裏を返せばこれらは、旧本社では成し遂げられなかった課題でもあります。

最大のきっかけは1つ目の機能集約です。各事業の企画部門やR&D部門が、関東圏に点在する工場・拠点に分散していました。部門間の横断的なコミュニケーションを取ろうとしても、物理的な距離が障害になっていたのが正直なところです。それらをこの本社に集約することで、先進的な研究開発機能の強化と、事業シナジーの創出による成長基盤の構築を加速させたい、というのが移転の大きな背景でした。

「ゆかりの地」への原点回帰がもたらした地域との絆

――「ゆかりの地に戻られた」という感覚があるとお聞きしましたが、正確にはどういったご縁がある土地なのでしょうか。

豊田氏:ニコンの創業は1917年で、最初の1年は文京区小石川に本社を置いていました。翌1918年に現在地・西大井の用地を取得し工場を建設、ここを本社として登記したという経緯があります。以来、この西大井には長く大井製作所として存在していましたので、「創業の地」ではなく「ゆかりの地」という表現が正確なところです。それでも約107年の歴史がありますので、ほぼ創業の地と言っても過言ではないかもしれません。

――ゆかりの地に戻られて、従業員の皆さんに何か変化はありましたか?

鈴木氏:ちょっと俗な言い方になりますが、「ふるさとに帰ってきた」という感覚があります。以前はここに3,000人規模の従業員がいたのが、徐々に人が減り、一時は更地になっていた時期もありました。そこにまた人が集まってきたわけです。昔よく行っていた近所の飲み屋が今どうなっているかと、思い切って行ってみると、なくなってしまった店も多くて──そういったノスタルジックな感覚はありますね。あまり仕事とは直接関係ないかもしれませんが(笑)。

六日市氏: 地域の方々からも、ニコンが戻ってきたことへの歓迎や期待の声をよく聞きます。1階のエントランスロビーは近隣の方にも開放していて、お散歩中のお年寄りが休憩に立ち寄ってくださったりもしています。地域社会との共生というコンセプトが、少しずつ形になっているのを感じますね。


開放的なエントランス / アトリウムは、地域の人たちの憩いの場に。

▽事例写真はこちらからもご覧いただけます

株式会社ニコンのオフィスデザイン事例|清和ビジネス

2017年始動、コロナを挟んだ7年間の軌跡

――プロジェクトの経緯を教えていただけますか。

豊田氏:基本的な構想は2017年頃から始まっていました。自社ビルに本社を構えるために何が必要かという原点から見つめ直し、事業シナジーの創出、従業員エンゲージメントの向上とコミュニケーション醸成、そして環境配慮と地域貢献という3本柱のコンセプトを設計事務所と協議しながら具体化していきました。

正式に社長直下のプロジェクトとして立ち上げ、取締役会にて着工への機関決定を通したのは2021年11月です。2017年から検討を重ね、途中コロナによる中断期間もありましたが、2022年7月に着工し、2024年5月に竣工、7月に移転という流れになります。

六日市氏:プロジェクト体制としては、オーナーに社長、実質的なリーダーに当時の専務(代表取締役専務)を置き、プロジェクトマネジメントオフィス(PMO)のコアメンバーは私を含めて11名。設計・建設の分科会、ITの分科会、移転・引越しの分科会なども含めると、関わった従業員は延べ56名ほどになります。

鈴木氏:注目していただきたいのは、11名のコアメンバー全員が専任ではなく、全員兼務でプロジェクトに臨んだことです。私は当時も人材開発部の部長を務めながら、このプロジェクトを並行して進めていました。打ち合わせの回数はコアメンバーだけで500〜600回、建築分科会に限っても200〜300回を超えます。昼休みやランチタイムを活用して毎日のように打ち合わせが続く日々でした。

若手・中堅20名の分科会が設計を動かした

――設計に際して、従業員の声はどのように取り入れたのでしょうか。

豊田氏:事前にアンケートも実施しましたが、それよりも重要だったのは、プロジェクトの直下に「ワークプレイス」の在り方を検討する若手・中堅社員約20名の分科会を設置し、そこで議論し、アイデアを答申してもらったことです。

設計事務所とのワークショップを約1年間にわたって実施し、「コミュニケーションが取りやすい環境がほしい」「部門間で行き来できる大きな階段がほしい」といった現場の声を直接設計に反映しました。

結果として、「開放的な大階段や、フロアを横切ったり、パントリーを通らなければ他のフロアに行けない」ように意図された設計が実現しました。フロアを移動するたびに自然と他部門の従業員と顔を合わせ、会話が生まれる仕掛けです。コンセプトと設計が、まさにドンピシャで合致しました。

温かみのある木のデザインが、リラックスして話せる雰囲気を演出している。

柱16mスパン・天井高3.5m──開放感を生んだ設計の絶対条件

――実際のオフィスを拝見して、非常に開放感がありました。設計面で特に重視されたポイントは何でしょうか。

六日市氏:設計事務所に最初から提示した絶対条件が「柱のスパンを16m以上とること」と「天井高を3.5m以上確保すること」の2点です。これを守ることで、開放感のある大空間が実現できました。延床面積42,000㎡、6階建てという規模のビルが、当初設計したパースのイメージとほぼ同一で完成したことは、正直なところ驚きでもあり、誇りでもあります。

もう一つの設計上の特徴は「メガプレート」構造です。大きなフロアプレート3枚を積み重ねた構造で、将来的にローコストかつスピーディーにスクラッチ(内装の組み直し)ができます。天井には配管が一切なく、照明計画もパソコンで設定すれば電気工事なしに変更できるため、5年後・10年後に働き方が変わっても、オフィスがその変化に柔軟に対応できる設計になっています。

特徴的な天井にご注目。天井裏に配管がない構造は、高い天井高を実現し、開放感をより引き立たせている。

フリーアドレス導入の壁──7割断捨離と社内説明の苦労

――フリーアドレスの導入には、従業員の方々の抵抗もあったのではないでしょうか。

豊田氏:大きな働き方の変更でしたので、さまざまな受け止め方があることは想定していました。フリーアドレス(部門毎にゾーニング、その中でフリーアドレスとするグループアドレス制)への全面移行には、書類や私物を大幅に削減する必要があります。「必要なものを見極め、7割は削除しましょう」というメッセージとともに、移転の約1年半前から、7割削減「断捨離キャンペーン」を実施。社内への個別の説明会の開催や月次の全社会議での説明、イントラネット上の新本社専用ページの開設等、様々な手段を使って繰り返し伝え続けました。

もちろん、これまでの席や収納のあり方に慣れている従業員にとっては、不安や戸惑いが生じるのも自然なことでした。

「自分の席があることで落ち着いて働ける」という気持ちは自然なものです。そこで竣工から移転の間に2回、段階的に従業員見学会を実施しました。まず家具・什器が入る前の状態を見てもらい、次に什器が入った後の状態を見てもらったのですが、実物を目にすることで「新本社すごい! これなら大丈夫かもしれない」と驚きや納得が生まれていきました。見学会に参加した従業員が職場に戻って「よかったよ」と口コミで広めてくれる効果も、ある程度狙っていました。

黒を基調としたシックなデザインの個人ロッカーが整備されている。

鈴木氏:率直に申し上げると、すべての従業員が最初からウェルカムではありませんでした。「会議室はドアが閉まるものにしてほしい」という声、「固定席がないのは困る」という声も届いています。ただ、基本的なコンセプト──オープンな空間でコミュニケーションをとってほしい──は曲げない。その上で、ドアが閉まる会議室を少し増やす、「なんとなく落ち着ける」半個室的な席を設けるなど、継続的に小変更を加えています。すべての意見をそのまま反映するのではなく、不安や困りごとに耳を傾けながら、コンセプトとのバランスを取りながら改善していくことが大切です。

打ち合わせに利用できる複数人向けの完全個室ブースや、個人作業に集中できる半個室ブースなど、働き方に合わせて最適な場所を選択できる。

株式会社ニコンの皆様、インタビューにご協力いただきありがとうございました!(後編へ続く)

▽事例写真はこちらからもご覧いただけます

株式会社ニコンのオフィスデザイン事例|清和ビジネス

【施設概要】

施設名:株式会社ニコン 本社/イノベーションセンター
所在地:東京都品川区西大井1-5-20
延床面積:約42,000㎡(6階建て)
竣工:2024年5月
URL: https://www.jp.nikon.com/


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