鰹節は、製造工程の最初から終わりまで、捨てるところがほとんどなく、再利用が可能です。
にんべんが長年に渡って鰹節を通して実践し、改善を重ねてきたSDGsの取り組み、家庭で簡単にできる「鰹節SDGs」のアイデア、さらに持続可能な経営のために大切に考えていることなどを、にんべん13代当主で代表取締役社長の髙津 伊兵衛(たかつ・いへえ)氏に伺いました。
――昨年秋開催された「日本橋サステナブルサミット」のイベントに合わせて、Facebookで、「にんべんが考えるSDGs 鰹節の持続可能性」をテーマに動画を配信されました。ご自身、漁船に乗ってカツオの一本釣りも体験されたとか。
髙津:
最初は難しかったですが、しばらくすると慣れて、小さい魚であれば釣り上げられました。大きいものですと7キロくらいになるので、それなりに力が必要です。小さいものしか上げられませんでした。
――SDGsは、2030年までに持続可能なより良い世界を目指す国際的な開発目標。「海の豊かさを守ろう」「気候変動に具体的対策を」「つくる責任・つかう責任」など、17の目標が掲げられています。資源としてのカツオは、今のところマグロと異なり、比較的安定的で持続可能との理解でよろしいですか?
髙津:
昨年、WWF(世界自然保護基金)の魚のサステナビリティ度5段階評価で、カツオは緑から黄信号。比較的良い評価となっていました。
最近は不漁になり魚価も高騰している状況です。長期的に資源が枯渇しているのか、今後の調査結果に注視しているところです。
――不漁の原因は何なのでしょう。気候変動との関係はありますか?
髙津:
正確な答えは見えていないのですけれど、漁獲量の影響はあると思います。
年によって魚体の大きさにバラつきがあり、大きい魚体が漁獲できずに小さな魚体の割合がすごく多くなっています。
需要と供給のバランスが崩れて、鰹節に適した大きさのカツオが一時期ほとんどなかったこともありました。
――自然が相手ですから年々状況が変わるのですね。
髙津:
難しいですね。何年かに1度の周期で小さな魚体の割合が上下するのですが、統計をみると、近年は、その割合が魚価も合わせて右肩上がりで高くなっています。いずれきちんとした資源管理が必要になるかもしれません。
――鰹節は、製造工程の最初から終わりまで捨てるところがほとんどないのですね。動画を拝見して改めて驚きました。
髙津:
煮窯でゆでたカツオの煮汁は再利用されます。専門業者が回収し、濃縮してカツオエキスとなり、いろいろな食品に使われます。
中骨はカルシウムに、中骨以外の骨や頭、ひれ、内臓など残渣は粉砕・乾燥して肥料や飼料に、カツオ工場からの水を貯めた浄化槽の汚泥も栄養分を含んでいるので同様に肥料や飼料に、という具合です。
乾燥するときに使う薪には主に地域の雑木林の間伐材が使われていて、その灰は焼き物の釉薬に利用されることもあります。
――SDGsという言葉が広まるはるか前から、地域のエコシステムとして機能しているわけですね。海外でも無駄なく使われているのでしょうか?
髙津:
海外ではカツオはツナ缶に使われることが多いので、骨は再利用されると思いますが、飼料くらいではないでしょうか。
――鰹節の加工製品の環境対応にも取り組まれていますね。
髙津:
鰹節は品質保持が大変です。酸化しやすいので、酸素や水分のバリア性などを考えると、どうしてもまだプラスチックを使わざるを得ません。
とはいえ、小分けの削り節「フレッシュパック」ではプラスチックの仕切りを減らすなど、プラスチック削減に努めています。
良い包材が登場してきたので、賞味期限の延長にも取り組み、1年が1.5年に延びた商品もあります。返品・廃棄ロス削減に少しは寄与できるのではないでしょうか。
今後鰹節の品質をしっかり保持できる生分解性プラスチックのような環境に優しいものが開発されたら、使っていきたいと思います。
髙津:
液体調味料については、時代とともに、瓶からペットボトルへと容量も商品形態も変わってきました。リサイクルするペットボトルは強度を保ちながら薄く軽くすることを、何十年もかけてやってきました。
2005年当時1リットル48グラムだったのが、現在は35グラムまで軽くなりました。年間換算にすると、6万トン強軽くなり、リサイクル費用の削減にもつながっています。
さらに進めることができるのであれば、進めていきたいです。
――鰹節をはじめとする出汁は、料理の味を決めるうま味であり、それは「味のインフラ」と強調されていました。
髙津:
うま味成分は、さまざまな食材に含まれています。鰹節はイノシン酸、昆布はグルタミン酸です。
うま味成分のすごいところは、特定の組み合わせでうま味が数倍に感じられる「うま味の相乗効果」が働く点です。
たとえば、鰹節と昆布を組み合わせると、人は、1+1=2ではなく7倍近いうま味を感じることが研究でわかっています。
出汁はカロリーがほとんどないにもかかわらず、料理をより美味しくし、満足感を与えることができるのです。
いろいろな食材と組み合わせて栄養バランスをコントロールしやすいので、うま味を意識した健康的な食事を私たちなりに提案していければと思います。
――家庭で簡単にできる「鰹節SDGs」のアイデアを教えてください。
髙津:
鰹節は7割以上がタンパク質で、水分を除きうま味がぎゅっと凝縮されています。これだけ多くのタンパク質を含む食材は例を見ないと思いますが、ただ硬すぎて何百グラムも食べられない(笑)。
体内ではつくれない必須アミノ酸も含まれているので、出汁を引いたあとのダシガラを食べないのはもったいないです。
おすすめは、しょうゆ、砂糖、みりんを合せてフライパンで煎って、おかかふりかけにします。しっかり水分を除けば日持ちもします。ゴマを混ぜれば風味がさらに良くなりますから、いろいろなアレンジを楽しめます。
みそ汁の出汁に鰹節を使ったら、ぜひそのまま具材と一緒に召し上がってください。具材にキャベツやタマネギ、ジャガイモなどを使ったみそ汁は、鰹節が入っていても非常によく合います。
――企業のSDGsの取り組みを考えたとき、従業員の環境を整えることも重要なポイントになってきます。
髙津:
弊社では、総務部主体でいろいろ活動しています。
昨年、女性の活躍推進に積極的に取り組む企業に与えられる厚労省の「えるぼし認定」を取得しました。
育休を取って復職する人がほとんどなので、働きやすい環境なのではないでしょうか。
従業員の男女比は結構変動しています。かつて、百貨店への出店が多かったときには、女性7割男性3割。それが逆転して男性6割女性4割になり、現在はちょうど5割対5割です。
売場だけでなく、事務職や営業職など様々な分野で女性を増やしています。
商品開発部門では管理栄養士の資格を持つ女性も多いですよ。基本的に新卒採用時は男女同一比で取ろうという思いがあります。
――サステナブルな経営をするうえで、大切にしていることは何でしょう?
高津:
にんべんには、古くから伝わる「ミツカネにんべん」という印があります。
鰹節を使うお客様、鰹節を創る人、鰹節の商いをする人の3者の良い信頼関係を続けていこうということを意味し、常に気にかけています。
生産の現場でも、長い間お付き合いしていただいている会社があります。長いところですと100年以上になります。
一方で廃業されるところもありますから、新しい会社との取り引きも増えています。変わっていくのはやむを得ないですが、そのなかでうまく回る関係を続けていければと考えています。
それは得意先だけでなく、社内の関わりにも言えることで、どこかに歪みが出ないように良い流れをつくるように心がけています。
――美味しい食事は、人々を心身ともに幸せにしますね。
髙津:
私は料理自体好きですし、つくったものを食べてくれて、人が笑顔になるのを見るのが好きです。
仕事もその延長線上にあります。
人を笑顔にする美味しい食事に寄り添い続けるのが、私たちのSDGs。
鰹節を選んだお客様がそれを使った料理を召し上がり、笑顔になっていただけるのが喜びです。
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