
日本橋に70余年店を構えるミカド珈琲は、今なお高い人気を誇るカフェのひとつ。町の再開発に伴い2025年10月に本店を仮移転しました。
今回は、ミカド珈琲商会の広報担当・綱島様と、10代の頃からミカド珈琲一筋で働かれている日本橋本店の店長・栁澤様にお話を伺いました。変わらないミカド珈琲の味・魅力、そして変わりゆく日本橋についてまとめた記事です。ぜひご覧ください!
目次
- 日本のカフェ文化の先駆者となった「ミカド珈琲」の歩み
- ミカド珈琲ならでは“本物”の美味しさへのこだわり
- いつの時代もお客様を裏切らない、時代を超えて継承される「ミカド珈琲の味」
- 再開発が進む日本橋とミカド珈琲の新たな挑戦
日本のカフェ文化の先駆者となった「ミカド珈琲」の歩み
かつてジョン・レノンとオノ・ヨーコ夫妻が軽井沢を訪れた際、彼らが足繁く通ったお気に入りの珈琲店がありました。それが、日本橋で誕生し、軽井沢旧道に店を構えるミカド珈琲です。
ミカド珈琲の味を求めて多くの著名人が訪れたほか、南極の昭和基地では料理人の希望によりコーヒー豆が提供されるなど、数々の伝説的なエピソードを生み出してきました。これらの物語が語るのは、ミカド珈琲の確かな存在感です。
「日本橋」で誕生したミカド珈琲
ミカド珈琲商会の始まりは1948(昭和23)年に遡ります。戦前、輸入食品店に勤務していた創業者の金坂景助氏は、将来の日本社会の発展を見込「近いうちに多くの日本人がコーヒーを楽しむ時代になる」と考え、日本橋室町でコーヒー豆の焙煎と卸売の会社を立ち上げました。創業の地に日本橋を選んだのは、「商売をするなら日本橋」という、砂糖問屋で育った母の言葉によるものです。
ミカド珈琲は、ヨーロッパ式のスタンドスタイルによるコーヒーの提供というユニークなアイデアを導入しました。その後、日本は高度成長期を迎え、日本橋は金融をはじめとする企業が立ち並ぶ“大ビジネス街”へと急速な発展を遂げます。忙しい仕事の合間に短時間でも美味しいコーヒーが楽しめる場所として、ビジネスマンの新たな憩いの場となり、大きな評判となりました。

お客様の声に応え「軽井沢」に出店
当時は夏になると日本橋店のお客様はこぞって軽井沢の別荘で過ごす時代でした。
「軽井沢でもミカドのコーヒーが飲みたい」という声に応えるべく、1952年(昭和27)年に千ヶ滝に出店後、旧軽銀座通りに「軽井沢店」を開店し、その後別荘地として発展していく軽井沢を目の当たりにしながら共に歩み続け、ミカド珈琲は、まさに日本のカフェ文化の先駆者、そして「リゾートカフェ」の原点ともなりました。
代名詞となる「コーヒーゼリー」「ミカド珈琲のモカソフト®」が誕生
その後も、創業者の発案によりミカド珈琲を代表する革新的な商品が次々と誕生します。
1963(昭和38年)には、”食べるコーヒー”を実現すべく日夜工夫を重ね、自家焙煎ならではの濃厚な味わいで、コーヒーを飲むようにすっきり食べられる「コーヒーゼリー」を発売。たちまちミカド珈琲を代表する商品となります。
さらに、1969(昭和44)年には、ソフトクリームを片手に軽井沢を散策するスタイルを定着させた「ミカド珈琲のモカソフト®」(以下、モカソフト)も軽井沢のお客様の声がきっかけで誕生しました。
創業者は店を訪れる家族連れを見て、「コーヒーが飲めない子どもにもコーヒーの美味しさを味わってもらいたい」と開発に踏み切ったのです。モカソフトは誕生から50年以上経った今でも、老若男女に愛される名物スイーツとして親しまれ続けています。

現在、軽井沢旧道店にて提供されているコーヒーゼリーとモカソフト(引用元:軽井沢旧道店 | ミカド珈琲商会)
ミカド珈琲ならでは“本物”の美味しさへのこだわり
ミカド珈琲の魅力は、創業以来追い求め続けてきた「日本人の口に合う本物のコーヒーの味」にあります。
その味を実現するうえで、舌の肥えた軽井沢のお客様の存在は大きく、彼らに満足してもらうために試行錯誤を重ねてきました。
日本人の手で作った「日本の珈琲の味」を世界へ
素材の持ち味を大切にし、繊細な酸味やふくよかな香りを楽しむ。そんな日本人が「美味しい」と思うコーヒーを実現するために、世界中の産地を巡る中で出会ったのが、メキシコのベラクルス州・コアテペックにあるサン・アルフォンス農園です。限られた地域でしか栽培されない希少な環境は、ブルーマウンテンと同等の条件を備えており、同じく高品質なコーヒー豆「ラ・タサ」の直輸入を開始しました。
今でも現地に足を運び、生産者と長年の信頼関係を築きながら『ミカドのために美味しいコーヒーを育てよう』という熱い想いを共有し、長年にわたって変わらぬ最高品質を追求し続けています。

自社工場で焙煎する徹底したこだわり
仕入れた生豆は全て、埼玉県にある自社工場で焙煎しています。ここには、歴代の焙煎のマイスターたちがその技術を伝承し、いつの時代も変わらぬミカド珈琲の味を守り続けています。
2024年9月にリニューアルした焙煎工場では、最新の焙煎機と職人の経験が融合しています。主に使用にするのは30kg窯の焙煎機が2台。豆ごとにじっくりと熱を与えながら、生豆の膨らみや色を何度も確認し、最後は音を聞き分けて火から下ろすタイミングを判断します。半熱風式にこだわる理由は、香りや旨味が持続するからだといいます。深みのある香りがじわじわと楽しむことも、日本人の口に合うコーヒーの大切な要素です。

社名の「ミカド」には、創業者の「日本人の手で作った、日本の珈琲の味を世界へ」という高い志が込められています。創業以来、ミカドを愛する人たちの手で独自の美味しさと品質を追求し続け、「ミカド」ブランドの価値を高めています。
いつの時代もお客様を裏切らない、時代を超えて継承される「ミカド珈琲の味」
「ミカド珈琲を初めて飲んだ時、衝撃を受けました!」そう語るのは、日本橋本店の栁澤店長です。

衝撃の味との出会いから始まったキャリア
栁澤店長がミカド珈琲と出会ったのは学生時代。ミカド珈琲・六本木店(当時)で友達とアルバイトをしたことがきっかけでした。
まだ学生だったため、それまでインスタントでしかコーヒーを飲んだことがなかったそうですが、ミカド珈琲の本物のドリップコーヒーを初めて飲んだ時、その美味しさに衝撃を受けたといいます。
「その時の味が忘れられなくて、現場で学んだドリップの方法や素材、味へのこだわりを知るほど、この仕事に携わりたいという想いが強くなりました」と振り返ります。
受け継がれる技術とこだわり
栁澤店長は次のように語ります。
「たとえば、ドリップやロースターの仕事におけるあくなき味へのこだわりや、焙煎職人さんから教えてもらった代々受け継がれている繊細な技術の話は本当に面白いです。聞いているだけで“ミカドの味”を守り続けるということは、本当にすごい仕事だなと感じました」
その想いは今も変わらず、「仕事柄いろいろなコーヒーを飲んでみましたが、やはりミカドの味が一番好きですね」という言葉からも、大きな”ミカド珈琲愛”が伝わってきます。
毎日変わるコーヒーを、いつもの味に
コーヒーは生き物なので、地域ごとの気候や水質、空気などの影響で、毎日味にわずかな変化が起こるとのこと。
それを常に一定の「ミカドの味」にするために、店ばかりか本部でも毎日微細な調整を行なって「ミカドの味」に調整することで“いつもの味”が常に保たれています。
栁澤店長は、ドリップ作業の繊細さを物語るこんな面白い話も教えてくれました。
「お店でドリップ作業をしているスタッフの調子が、その日の味でわかるのです。気分や調子がいい時にはブレのないクリアな味になりますが、どこかせかせかしていたり、気持ちが安定していない時には、不思議と味にブレが出るのです」

お客様を裏切らないために
「創業70余年、いつの時代もミカド珈琲の味を楽しみに訪れていただけるお客様を裏切るわけにはいきません。自分がこの味を忘れられなかったように、お客様に“いつものミカドの味が一番だね”という言葉をいただくのが最も嬉しいですね」と栁澤店長は続けます。
「長年通ってくださる常連の方や、昔日本橋でOLとして働き、通ってくださった方たちが久しぶりにミカド珈琲で再会されるのも、ミカド珈琲ならではの魅力です。日本橋本店では【日本橋ぶれんど】といったブランド展開も行なっており、ミカド珈琲の味を守る一人として、後世にこの味を残していく仕事に大変誇りを感じています」

変わらない味と、変わらない雰囲気
ミカド珈琲には、アットホームな雰囲気を楽しみに通われている人も多いそうです。
「スタンドスタイルは、仮店舗に移転した今も1階などに残っていますが、カウンター方式でお客様からも気軽に話しかけやすいため、ちょっとしたおしゃべりが楽しめるのもミカド珈琲ならではですね。街が新しくなるにつれてミカド珈琲を訪れる若いお客様もかなり増えていますので、コーヒーの味とともにこの雰囲気もぜひ味わってもらいたいですね。」
最後に栁澤店長はこう語ります。
「いつの時代も美味しいミカド珈琲の本物の味とリラックスできる雰囲気を通して、たくさんの方との素敵な出会いやかけがえのない時間が生まれ、お客様の豊かな毎日に少しでもお役に立てれば嬉しいです」

再開発が進む日本橋とミカド珈琲の新たな挑戦
現在、日本橋は再開発の真っ只中。ミカド珈琲の日本橋本店も仮店舗での営業となっており、日本橋はこれまでにない魅力にあふれた新たな街に生まれ変わっていきます。
ミカド珈琲は、昭和の高度成長期とともにビジネス街として発展してきた日本橋の毎日を優しく見守り、まだ現代のようなカフェもなかった時代から、「ミカド珈琲の味」を磨き上げ、ビジネスマンの憩いの場として、多くの人に愛され続けています。
令和を迎えた今、日本橋は外資企業の進出や新たな商業施設の誕生により、若い世代や新たに日本橋を訪れる人でにぎわっています。
新しい店舗で広がるミカド珈琲の世界
2019年6月には、初のオフィスビル内店舗となる「日本橋室町三井タワー店」をオープン。従来のクラシカルなイメージとは違う、新しい感覚でミカド珈琲を楽しんでほしいという思いが込められています。
日本橋も今後さらに国際都市化が進んでいく中で、創業者の金坂氏が志した「日本人の手で作った、日本の珈琲の味を世界へ」という志は、新しい日本橋でさらに広がっていくことでしょう。外国人ワーカーが「ミカド珈琲」のスタンドでコーヒーを楽しんでいるような光景もきっと近い将来に見られるはずです。
次の時代へ受け継がれる本物の味を、日本橋で
一般的なカフェチェーンではなかなか味わえない、新しい発見や出会いを楽しむために、これまで多くの人々を魅了してきた「ミカド珈琲」の本物の味を、ぜひ体験してみてください。
半世紀以上サステナブル珈琲として買い付けているメキシコ農園の「ラ・タサ」、そしてミカド珈琲自慢のモカソフト、コーヒーゼリーなど、自社焙煎ならではの味わいは、きっと日本橋での大きな楽しみになることでしょう。
これから生まれ変わる日本橋には、若い世代や海外などからさらに多くの人々が訪れ、日本橋の魅力が再認識されるはずです。時代を越えて愛される日本橋を代表する「ミカド珈琲」の味は、新たな日本橋での豊かな出会いとともに、次の時代へ隆々と受け継がれていきます。

〈インタビュー協力〉
会社名:株式会社ミカド珈琲商会
住所: 東京都港区三田2-21-8 TEL:03-3453-9016
創業:1948年(昭和23年4月1日)
代表取締役社長:鳴島佳津子
撮影場所:ミカド珈琲店 日本橋本店
※「ミカド珈琲のモカソフト®」は株式会社ミカド珈琲商会の登録商標です
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