
映画「国宝」が空前のヒットとなり、日本中が歌舞伎の美しさ・華やかさに魅了されている現在。そのトレンドに「あやかろう!」とする編集チームの魂胆が見え見えの企画ではございますが、いまから遡ること4年前、2022年にhatarakuでは「歌舞伎×はたらく」というユニークな視点から、以下の2つのテーマで読み物記事を掲載いたしました。
▽歌舞伎の「所作」や「せりふ」でコミュニケーションを上質にする
▽「強い組織づくり」を学ぶ~歌舞伎の一門が400年以上の歴史を彩る仕組みと成り立ち~
今でも、なかなか興味をそそられるテーマだと思いませんか?
日本を代表する伝統文化である「歌舞伎」。その起源は江戸時代初期(17世紀初め)にまでさかのぼります。誕生以来400年以上の時を経て、今なお愛され続けている歌舞伎は舞楽、能、狂言、文楽と並ぶ日本の伝統的な舞台芸術として重要無形文化財に指定され、ユネスコ無形文化遺産にも登録されています。
ちなみに江戸歌舞伎の始まりは、中橋(現在の日本橋と京橋の中間あたり)に猿若中村座ができた1624(寛永元)年といわれ、現在でも「江戸歌舞伎発祥の地」の石碑を目にすることができます。
これまでにhatarakuで掲載した2本の記事では、実際に女形として舞台に立たれていた方とともに、歌舞伎の所作やせりふから多様なコミュニケーション術を学びました。また、父子の関係を超えた、家族以上に強い一門の絆を通じて、組織への帰属意識やエンゲージメントについても考察しています。
歌舞伎が受け継いできた伝統やエッセンスの一部を、現代のビジネスシーンにどのように活かすことができるのか――そのヒントをまとめた読み物となっています。このタイミングで、改めてご紹介させていただきます。
目次
- 「かぶき者」の美学――江戸文化が生んだマーケティングの原点
- 【pick up記事】歌舞伎の「所作」や「せりふ」でコミュニケーションを上質にする
- 歌舞伎の屋号に宿る力――歌舞伎に見る組織づくりとエンゲージメントの本質
- 【pick up記事】「強い組織づくり」を学ぶ~歌舞伎の一門が400年以上の歴史を彩る仕組みと成り立ち~
- まとめ
「かぶき者」の美学――江戸文化が生んだマーケティングの原点
戦乱の世が終わりを告げた江戸時代には、「百花繚乱」とも称される多彩な市民文化が一気に花開きました。特に、江戸文化の中心地となったのが「日本橋」です。日本全国から人とモノが集まる商業や経済の一大拠点であっただけでなく、新たな文化の発展においても大きく寄与し、これまでにない産業や市場を次々と生み出しました。
日本橋は、特に芝居見物の街としても人気を博します。江戸歌舞伎や人形浄瑠璃などの上演は、「江戸三座」と呼ばれる幕府公認の芝居小屋――中村座、市村座、森田座――があった現在の日本橋「人形町」界隈(堺町、葦屋町、木挽町の三町)に限られていたため、このエリアは魚河岸と並び、江戸っ子らしい気風を育んだ地として知られるようになりました。
芝居以外にも、絵草紙や浮世絵などの出版・印刷業、多彩な食文化の発展など、庶民の心をつかむエンタメやアート、食文化が盛んになったことで、江戸はさらに賑わいと活気に満ち、18世紀には人口100万人を超える「世界一の大都市」へと成長していきます。こうした様子は、大河ドラマ『べらぼう』などでも垣間見ることができますね。
歌舞伎の語源は「傾(かぶ)く」。流行の最先端をいく奇抜なファッションや世間の常識はお構いなしの「かぶき者」を模した扮装で見せたのが、歌舞伎のルーツといわれる「かぶき踊り」でした。既存の価値観にとらわれず、常に革新を生み続けることで、人々を楽しませ、心を豊かにする――それこそが、歌舞伎が絶えず受け継いできた精神です。
面白いものを貪欲に取り込み、観客を楽しませるための演出や工夫、洗練された所作の美しさ、美意識の絶え間ない追求など、さまざまな努力を重ねた結果が、多彩な魅力にあふれた歌舞伎を築き上げてきました。
江戸と上方(京都・大坂)を中心に、各時代の観客の趣味嗜好をいち早く取り込み、時代の先を行くような演目や演出などで話題や人気を高める――歌舞伎は、現代のブランドマーケティング戦略にも通じる先見性を持っていたのです。
名優・名作家たちの活躍で新しいレパートリーを増やしながら、数えきれないアイデアや工夫が重ねられました。その集大成が、今の歌舞伎の舞台に広がっています。そこには、現代のビジネスコミュニケーション術やプレゼンテーションにも活かせる、さまざまなヒントが隠されているのです。
【pick up記事】歌舞伎の「所作」や「せりふ」でコミュニケーションを上質にする
まずは、プレゼンテーションや交渉・面談といったビジネスシーンにおいて、歌舞伎の「所作(動きや仕草)」や「せりふ」を取り入れることで、顧客とのコミュニケーションをよりスムーズかつ上質なものにする――そんな企画をご紹介します。
これは、400年以上にわたり観客を惹きつけてきた歌舞伎の演出技法や工夫をヒントに、現代の働き方に活かせるポイントをまとめたものです。
女形の所作(動き・仕草)でハードな提案を柔らかい印象に
プレゼンテーションで緊張してしまいまして・・・。どなたでも一度は手足の震えをどう抑えようかと考えた経験をお持ちではないでしょうか。その緊張は相手に伝わり、プレゼン会場全体の空気が張り詰め、クリアすべき提案のハードルが高くなってしまったケースも。
女性より女性らしいとまで言われる女形の所作・せりふから、場の緊張を和らげ、相手に柔らかな印象を与えることができるテクニックを見ていきたいと思います。
指先は口よりも多くを語る
名刺を差し出す時や資料を手渡す時、指先に力を込め、きれいに揃えることを意識してみましょう。
また資料などを持っていない方の手を、持っている方の手の「手首」辺りに添えるのも効果的です。指先は口よりも多くのことを語ってくれるのです。

「半身(はんみ)」に構えることでメリハリをつける
挨拶をしたり、重要なことを訴える際、相手と真正面に向き合うのは当然ですが、常に正対していると相手に圧迫感を与えてしまう場合もあります。
そこで取り入れたいのが「半身」に構えること。
相手に対し自分の身体を「斜め」に対することで身体の見える面積が減り、圧迫感を和らげることができるのです。
「見得」はクローズアップ、ストップモーションの効果
歌舞伎も「見得」という演出方法は、馴染みのある言葉かと思います。この見得には「クローズアップ」や「ストップモーション」といった効果を実現したもので、その役者の存在を観客の脳裏に強く焼き付けていると言われています。

目を見開いたり、動きを一瞬止めてみる
プレゼンテーションの際、相手に一番伝えたいこと、「山場」が必ずあると思います。ここぞという時、目を見開き、目力を込めて相手を見つめたり、動きをわざと一瞬だけ止めて相手の注意を引き付ける。
こうすることで相手の目線は貴方に釘付けとなり、心理的にクローズアップと同様の効果を与えることで、強い印象を残すことができるというわけです。
日本人は七五調のせりふが大好き!耳触りが良く、印象に残る
『青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)』通称『白浪五人男(しらなみごにんおとこ)』の中の弁天小僧の名ゼリフに
「知らざあ言って聞かせやしょう。浜の真砂(まさご)と 五右衛門が 歌に残せし 盗人(ぬすっと)の 種は尽きねえ 七里ヶ浜。その白浪の 夜働き……」
というものがあります。
7文字・5文字・7文字・5文字と続く七五調のせりふは日本人にとって耳触りが良く、聞く相手は不思議と気持ちよくなってしまい、印象に残るものです。
リズム感のある言葉で会話をスムーズに
会話のすべてを七五調にするのは現実的ではありませんが、プレゼンテーションの重要なポイントや逆に相手をリラックスさせたいブレークポイントで「さてこの度の ポイントは」とか「大切なのは ここからで」などと会話に七五調を挟み込んだりすると、相手に強い印象を与えたり、リラックスしてもらえたりします。
その他、贔屓の役者に「成田屋!」「中村屋!」といった掛け声をかける文化――「大向こう(おおむこう)」や、黒子に徹して顧客に寄り添うコミュニケーション術についても、記事にまとめております。ぜひ、下記よりご覧ください。
歌舞伎の屋号に宿る力――歌舞伎に見る組織づくりとエンゲージメントの本質
歌舞伎の舞台では、役者に向けて「○○屋!」という掛け声が必ず飛び交います。これは歌舞伎ならではの独特な雰囲気を醸し出すもので、絶妙な間合いで発せられる屋号の粋な掛け声がなければ、舞台が締まらないとも言われるほどです。
歌舞伎役者は、それぞれ一門の屋号を持っていますが、江戸時代には武士以外の階級が苗字を名乗ることは許されていなかったとされています。つまり、歌舞伎が誕生した当初、歌舞伎役者は市民たちの憧れの存在でありながら、低い身分に置かれているという複雑な背景があったのです。
歌舞伎の世界で最初に屋号が用いられたのは、「荒事」(あらごと:荒々しく豪快な演技)の創始者として江戸歌舞伎の礎を築いた初代・市川團十郎による「成田屋」であると言われています。これは、初代團十郎が千葉県成田市の「成田山新勝寺」を信仰していたことが由来と言われるように、歌舞伎の屋号は一門の出自や家業、副業など、役者の背景を感じさせる重要な意味合いを持っています。
その後、九代目・市川團十郎は明治20年(1887年)、明治天皇の前で『勧進帳』や『高時(たかとき)』を上演する天覧劇を行い、歌舞伎役者の社会的な地位向上に貢献しました。これにより、歌舞伎は日本を代表する伝統文化の地位を確立することになります。
以降、400年余りの歳月を重ねる中で歌舞伎の世界では多くの屋号が生まれ、それぞれの一門の屋号のもと、「成田屋」であれば、役者の代表的な名跡(みょうせき)として「市川團十郎」、「市川海老蔵」、「市川新之助」などが「成田屋」の正統な後継者の名前として受け継がれていきます。
このように、歌舞伎における屋号は、企業ブランドにも匹敵する唯一無二の存在です。その名の下に、400年もの長きにわたって革新を重ねながら守り続けてこられた、一門の役者としての誇りやアイデンティティ、一門独自の強みとも言えるお家芸のスキルやノウハウ、多彩な演目集などが、多くの弟子や舞台づくり等に関わるあらゆる人たちなども含め、組織として代々受け継がれてきたのです。
このように、同じ価値観や強い結束力を有する歌舞伎の一門の組織づくりには、企業における「強い組織づくり」や「エンゲージメントの向上」などに合い通じる点が多く見られます。
【pick up記事】「強い組織づくり」を学ぶ~歌舞伎の一門が400年以上の歴史を彩る仕組みと成り立ち~
続いて、400年以上続く歌舞伎の「一門」に受け継がれてきた絆から、強い組織づくりのヒントを探ります。現代の経営者が直面する課題である、帰属意識やエンゲージメントの向上についても、歌舞伎の伝統から得られる示唆をまとめています。
一門を支える師弟の絆
多人数の出演が必要となる歌舞伎の舞台は血縁者だけでは維持できません。
そこには影に日向に歌舞伎を支える「お弟子さん」の存在があります。一度入門すれば数十年にも及ぶ師弟関係。その絆はどのようにして生まれるのでしょうか。

師匠を中心とする家族以上の「絆」~本物の父子を超えた家族以上の関係性~
雇用契約ではない、師弟をつなぐもの、それは親子関係にも似た、「絆」とも呼ぶべきものです。歌舞伎の公演は1年中ほぼ休みなく続けられるため、楽屋内で師匠の身の回りの世話もするお弟子さんと師匠は非常に長い時間を共に過ごします。
地方公演や巡業のときなどはまさに「寝食を共にする」わけで、そこには本物の父子を超えた家族以上の関係性が生まれるのです。
また歌舞伎の「世襲制」というシステムもこの絆を維持するのに重要な役割をはたしています。師匠の疑似家族であるお弟子さんにとって、師匠の息子さん・坊ちゃんもまた「家族」。
その成長を師匠とともに見守り、成長してからは次世代の師匠としてこれを支えます。
どこの誰かもわからない人がトップになっては支えられませんが、幼い頃から見守ってきた人が次世代のトップとなるのであれば納得して支えられます。
こうして歌舞伎の一門は、400年を越える歴史を築いてきたのです。
モチベーションの源泉は「一門への帰属意識」と「歌舞伎愛」
いくら師匠との固い絆があるとはいえ、お弟子さんたちが主役を演じることはありませんし、また多額のお給料をもらえるわけでもありません。しかしそれでもお弟子さんたちは毎日舞台に立ち続けます。
モチベーションの源泉は「一門への帰属意識」と「歌舞伎愛」
そんなお弟子さんたちが日々舞台に立つモチベーション。それは、一門の一員であるというプライド、そしてなによりも「歌舞伎が好き」という歌舞伎愛から生まれます。
歌舞伎の役者さんは400年以上続く歌舞伎の世界、そして名門の一員であるということに強い「帰属意識」と「プライド」を持っています。
そのため、一人ひとりが「自分が歌舞伎を支えている」と考えることができるのです。そしてそのことは強い「歌舞伎愛」にもつながります。
ポイントは「帰属意識」「プライド」「歌舞伎愛」というモチベーションの源泉が、全て他人から与えられるものではなく、自律的に、自分の内側から発生しているものであるという点です。

さらに詳しく知りたい方は、下記の記事をご覧ください。
まとめ
以上2つの記事から、歌舞伎の伝統・エッセンスを現代のビジネスシーンで活かすことができるのかをまとめた記事についてご紹介しました。
最後になりますが、歌舞伎をまだご覧になったことがない方には、ぜひ実際に歌舞伎の舞台を味わってみることをお勧めします。
役者との距離の近さやライブ感のある息づかい、江戸の粋で豊かな独特の表現力や美しい所作、さまざまな感情が込められ、思わず目を奪われるような斬新なメイク、衣装など・・・
そして驚くような仕掛けによるダイナミックな舞台演出や音楽など、最初から最後まで見どころ満載で、きっとこれまで味わったことのない、ワクワクするような新鮮な感動を味わっていただけることでしょう!
さらに、400年にわたり人々を楽しませるために積み重ねられてきた数々の革新的な取り組みを深く探究することで、歌舞伎が全く新たな市場や文化を創造してきた独自のビジネス戦略や魅力づくり、多彩なアイデア、発想力の素晴らしさを発見することができます。そこには、皆さんの仕事にも活かせる多くのヒントが詰まっているはずです。
hatarakuでは、今後も働くことがより快適になるためのヒントをお届けします。次回の記事もどうぞお楽しみに!
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