ユーザベースの企業カルチャーを具現化。オフィス自体がコミュニケーションツールのひとつとなる
前編では「共創が起こる場所」「熱を生む場所」「象徴となる場所」というコンセプトから今回の移転プロジェクトの狙いや、そこに込めた想いなどを探ってまいりました。
『共創』する場を提供することで『熱』を発生させ、生産性を向上させること、そして大手とベンチャーが結びつく新しい丸の内を『象徴』する場所となることを狙った、ユーザベースの新オフィス移転プロジェクト。
続く後編では、オフィス移転によって変化した事や苦心した点、移転プロジェクトを成功に導くために工夫したポイントなどをうかがいました。
内部・外部の「人」が集まりやすくなった新オフィス
ユーザベース総務(同社ではWaku Work Teamと呼んでいる)の林さんによると新オフィスの評判は上々とのこと。
「完成予定図のCGよりも実際に見たほうがスゴイ!」と想像以上にきれいに仕上がった新オフィスに驚嘆の声があがっているようです。
また丸の内という超一等地、しかもアップルストア丸の内の並びで、1F路面フロアにオフィスがあるというのは外部の方に所在地を説明しやすく、交通のアクセスも抜群な点も好評。
カフェスペースやイベントスペースといった大勢の来客にも対応できるスペースが設けられたこともあり、外部のお客様を呼びやすくなったと喜ばれています。
実際にオフィスにうかがうと、「見せる」「魅せる」という感覚がとても強いオフィスだと感じました。
外の通りからオフィス内が見える構造や、オフィスのシンボル的存在であるデジタルサイネージ、ガラス張りで外に声が聞こえるようになっている会議室など、元々オープンな会社だったとのことですが、それを外部の人にも伝わるような仕組みになっています。
採用面でも大きなメリットが
また新オフィスは採用面でも大きなメリットがあったと林さんはおっしゃいます。
明るく開放的で、大型デジタルサイネージをはじめ、大通りストリートや電話ボックス、バス停といったアトラクティブな要素を満載したオフィス環境は万人を惹きつけるものがあり、面接などで訪れた人は魅了されてしまうとか。
また社員や採用予定者の中にも以前丸の内で働いていたという人が少なくないため、違和感、戸惑いなどはあまりなく、そしてなんといっても丸の内アドレスというブランドは大きいとのことでした。
人気のカフェスペースのカウンターには総務のスタッフが立つ
社内の人気スポットを林さんにうかがうと、「カフェスペースの人気が高いですね。」と教えて下さいました。
驚いたのはそのカフェで働くスタッフのこと。
なんとカフェのカウンターの中にはWaku Work Teamのスタッフが立ち、ドリンクを作ったり、接客をしているというのです。
「外注でカフェのスタッフを入れることも考えたんですが、それだとカフェを訪れた人同士のコミュニケーションが生まれにくいんです。
最近では月に数十人の新入メンバー(※)が入社することも珍しくなくて、そうするとお互いに顔も名前も分からないというメンバーが増えてしまい、またオリエンテーション的なことも不足気味です。」
(※メンバー:同社社員の呼称)
それを林さんたちがカウンターに立つことで、知らない人同士を結びつけたり、オフィスで分からないことなどを説明することができる。
新しいオフィスのことを最もよく知る総務のスタッフが常駐することで、コミュニティマネージャーやコンシェルジュ的な役割を果たしているというわけです。
Waku Work Teamと名付けられた「攻めの総務」
そんな総務スタッフのことをユーザベースでは「Waku Work Team(ワクワクチーム)」と名付けています。
林さんいわく、「私達の仕事は、会社がお金を稼ぐための土台作りが7割。そして後の3割はみんなをワクワクさせ、会社を好きになってもらう。メンバーのモチベーションを上げることだと考えています。」とのこと。
ただ管理をするという総務ではなく、環境を整え、みんなが働きやすい環境を作る「攻めの総務」という印象を持ちました。
丸の内の景観を守るという高いハードルに苦労したデジタルサイネージ
おおむね大成功といえる今回のオフィス移転プロジェクトですが、逆にご苦労された点を林さんにうかがってみました。
「なんといってもデジタルサイネージですね。それと大階段も大変でした。」
デジタルサイネージの設置で千代田区と何度も交渉を重ねる
一般的には株価情報などが表示されているのを見ることが多いデジタルサイネージですが、ユーザベースのものはその既成概念を大きく上回ります。
株価や為替といった経済指標はもちろんのこと、同社の主力事業であるNewsPicksの記事を表示したり、排気ダクトや水面を表示して擬態することもお手の物。
外の通りからも見ることができるので、お近くを通りかかった際は、一見することをおすすめします。
「ただデジタルサイネージの設置は、千代田区との間で何度も何度も交渉を重ねやっと許可がおりたんです。」と林さん。
丸の内が属する皇居周辺は景観を守るため外看板も出せない地区とのことで、表示する内容や文字列が流れる速さ、光量などに至るまで厳しく規制されるそうです。
二転三転した大階段のプラン
ユーザベースの新オフィスは1Fと2Fの2つのフロアから構成されていますが、その双方に一体感を出すために吹き抜けの大階段を設けています。
林さんによると、「当初は階段自体をステージのようにして、そこに登壇できるようにしようと考えていたんです。
ただ予算や納期の関係で頓挫してしまって、それなら大きめの踊り場を作ろうとしたんですが、それも無理だとなり、現在の形に落ち着きました。」とのこと。
ステージや踊り場を作ってしまうと、建築基準法上「床面積」に該当してしまうため、建物の申請を出し直さなければならないなど、ビル全体を巻き込む大事になってしまうようです。
プロトデザインの段階から情報を共有することで、社内意見の集約を図った
ただそんなハード面での苦難とは裏腹に、社内意見の取りまとめはかなりスムーズに進んだようです。
「初期のプロトデザインの段階から全メンバーに対し情報を共有し、全社ミーティングに何度もかけたりしていたため、大きな反対意見などは出ませんでした。」と林さん。
通常オフィス移転プロジェクトでは、「昔のやり方が良い」とか「固定席を設けてくれ」といった意見が続出し、部署ごとの意見の取りまとめなどに苦労するのが通例で、ユーザベースのようなケースは珍しいといえます。
負のレガシーがないため、完全フリーアドレスへの移行もスムーズに
成功した一因として、ユーザベースには負のレガシーが少ないことが考えられます。
同社では創業時の固定席から六本木オフィス時代のチームアドレスと、それまでに段階を踏んでいたので今回の完全フリーアドレスへの移行もスムーズにおこなわれました。
また紙文化ではないことから、「承認」のために押印をもらうという作業を省くことが可能でした。
もし承認が必要だと、上長がどこにいるのか探さなければならない。すると居所がわからないと困るので、固定席が必要になってしまうという負のスパイラルに陥ってしまいます。
このため元々フリーアドレスに向いた社風だったといえます。
オフィス自体をコミュニケーションツールのひとつとして企業カルチャーを伝える
比較的新しい企業の場合、企業カルチャーを構築したり、それを継承していくことに苦労しているケースが少なくありません。
林さんにメンバーにどうやって企業カルチャー、バリューを伝え、浸透させているのかうかがってみると、「上長、リーダーと1vs1 で話す機会を多く設け、コミュニケーションを蜜にしています。自分のやりたいことと、チーム、会社が考えていることのすり合わせの機会をしっかりと取っているため、働いていて違和感を感じることは少なくできていると考えています。」と教えて下さいました。
また、そもそもユーザベースの場合、オフィス自体が「偶発的な出会いが新しいソリューションを生む」という同社の企業カルチャーを具現化しているため、新入メンバーが多くても、社内カルチャーの継承という問題に悩む必要が少なくてすみます。
働いていれば自然と理解できるからです。
「この企業規模でよくできてますね」といわれますと林さん。
それもこれも「自由と責任」という共通の価値観を持った人が集まり、個々が自律的に行動できる強固な組織であるからこそできることなのかもしれません。
共創の場所であるオフィスを活かして、サービス間の連携をはかっていきたい
林さんに今後の展開をうかがうと、「既存のサービスの横の連携、リンクをはかり、事業を拡大していくことですかね。」と答えてくださいました。
そして「オフィスに来ることで生産性が格段に上がるようにしていなければならないと考えています。そのためには常に改善を繰り返す。それが私達らしいオフィスであると考えています。」とも。
さすが「攻めの総務」です。
デジタルサイネージは清和ビジネスなしには実現しなかった
今回のオフィス移転プロジェクトにおける、清和ビジネスの関わり方について林さんにうかがってみたところ、
「デザイン会社が予め決まっており、プロジェクトがスタートしてからの加わっていただいたという厳しい条件の中で、非常によくやっていただけたと思います。」
「特にデジタルサイネージは清和ビジネスさん無しには実現しなかったと思います。千代田区との大変な交渉を、根気よく粘り強く続けていただきましたから。」
とのお言葉をいただきました。
まとめ
取材して感じたことは、「自由と責任」という考え方が、メンバー一人一人にしっかりと浸透しているということでした。
そのため全メンバーが自らの働く環境であるオフィス環境のことを他人事と考えず、自分のこととして捉えている印象です。
コロナ禍によるリモートワークの普及で、社員の勤怠管理の難しさが問題となっていますが、ユーザベースのようにメンバーに自由を与え、自律性のある強固な組織を作るあたりに解決のヒントがあるのではないかと感じました。