創業110年を迎える老舗企業が本社移転で目指したもの
1913年(大正2年)の創業から間もなく110年を迎える株式会社門倉組。
湘南地区に根を下ろし、公共建築物、工場、医療施設、テナントビル等の企画・設計・施工・不動産活用を行う建築事業、大規模修繕、リフォーム等を行う再生事業、公共インフラ工事や宅地造成工事等を行う土木事業まで、地域の成長発展に広く貢献されてきました。
そんな門倉組が次の100年を見据えて本社を移転されたのは2022年9月1日のこと。
現在ではフリーアドレス移行の成功例として他企業から見学依頼が来るほどの新オフィスですが、一時は本社移転プロジェクトが頓挫してしまうのでは…と思うほど多くの困難があったといいます。
今回は伝統ある老舗企業が本社のオフィス移転を通じ、どのように「働き方改革」や「DX(デジタルトランスフォーメーション)」を推し進めていったかを、移転プロジェクト担当チームの皆さんに話を伺いたいと思います。
エントランスに掲げる「法被(はっぴ)」は老舗企業の誇り
門倉組の本社オフィスに伺うと、一枚の「法被」が真正面に掲げられた、インパクトのあるエントランスが我々を出迎えてくれます。
門倉組のルーツである鳶職の証、法被
そこにはグループ会社をいくつも抱えるディベロッパーとなった現在も、自らのルーツ、歴史を大切にしたいという想いが込められているのです。
また廊下の壁には一面の賞状、感謝状が飾られています。
これは公共工事の優良工事の表彰状やお客様などからの感謝状であり、同社の誠実な仕事ぶりを表す履歴書といっていいでしょう。
そしてなんといっても目を引くのが、オフィスの正面の窓から見ることができる雄大な富士山の姿。
ロケーションがいいため、ほとんどの時間、窓のブラインドが開けられており、景観を楽しみながら仕事ができる「環境の良さ」がうかがえました。
人的資産を最大限に活かすことが目的
今回の移転プロジェクトの目的をうかがうと、「モノづくり・街づくり・人づくり」という門倉組の企業としての基本姿勢がそのベースにあるようです。
グループ会社を集結させ、コミュニケーションロスを解消する
門倉組には湘南ホームフレンド、湘南ミサワホーム、ガーデンサービスといったグループ会社がありますが、これらは各地に点在し、相互のコミュニケーションは決して円滑とはいい難い状態でした。
例えば門倉組は現在「Well-being(ウェルビーイング)」の考え方を経営の柱の一つとして取り入れており、その一環として室内外の緑化を積極的におこなっています。
であるならば、本来公園づくりや植栽管理工事など、「緑」に関する事業を行っているグループ会社のガーデンサービスと連携を蜜に取り、事業を共創していることが望ましいはずです。
しかしこれまではグループ内のコミュニケーションが取りづらく、シナジー効果が十分に発揮できていなかったのです。
そこで今回の移転プロジェクトでは点在していたグループ会社を本社ビル内に集結。横のつながりを蜜にして、コミュニケーションロスを解消することを狙いました。
大切な人々に、いつまでも長く働いてもらいたいという想い
もう一つの狙いは大切な人材に、いつまでも健康で長く働いてもらうということです。
同社の社長は徒歩通勤の社員に「環境手当」を支給するなど、健康経営に取り組みたいという強い意志をお持ちとのこと。
高い実績を持っていたり、これから大きな伸びしろがある人材を、健康を損なうことで失ってしまうのは、企業としても大きな損失となります。
そこで本社移転を期に働く環境を向上させ、Well-beingという考えを実践していこうと考えたわけです。
難題続出!移転プロジェクトは一旦ストップ⁉
こうしてスタートした本社移転プロジェクトでしたが、その実現には数多くの難が待ち受けていました。
働き方、通勤方法、大きな変化に戸惑いも大きく…
まず大きかったのが、働く環境や働き方が大きく変わることに対する、社内の戸惑い、抵抗感でした。
門倉組では自動車通勤の社員が多く、それまでの本社では広い敷地の中に自由に車を停めることができていたのですが、新本社は駅近の一等地でそれほどの余剰地はなく、通勤方法を見直さなければなりませんでした。
また自転車・バイク通勤の社員の中にも通勤の距離・時間が変わることに抵抗感を持つ方が多かったのも事実です。
通勤関連だけでもこの状態ですから、フリーアドレスの導入など、働き方改革が受け入れられるのには、かなりの困難が予想されたのです。
プロジェクトリーダーの離脱、プランは一旦ストップ⁉
そんな中、移転プロジェクトを大きなアクシデントが襲いました。プロジェクトを牽引していたプロジェクトリーダーが、プロジェクトを離れなければならないと……。
現在のプロジェクトメンバーたちはプロジェクトを引き継いだものの、全てを引き継ぐのは難しく、蓋を開けてみればどれくらいの面積を新オフィスで使用するかなど、詳細が全くわからない状況になっていました。
そこで新たなプロジェクトリーダーは重要な判断をくだします。
プロジェクトを一旦ストップし、計画を再度練り直すことにしたのです。
移転工事の着工は2022年5月。
その1年以上前からスタートしていたプロジェクトでしたが、気がつけば細部が詰められていない状態のまま、残り数ヶ月というところまで期限が迫っていました。
プロジェクトメンバーは、
「工事中はネガティブな声も多かったんです。正直、喜ばれないものを作っているんじゃないかと考えてしまい、辛かったです」と当時を振り返ります。
プロジェクトメンバーたちはスケジュール的にも、精神的にも追い詰められていたのです。
【後編】では失敗さえ覚悟した移転プロジェクトが成功を収め、取引先などから見学依頼が来るほどになった新オフィスが門倉組にもたらした変化についてお聞きしてまいります。
アレルギーが予想されたフリーアドレスが好意的に受け入れられて新しいコミュニケーションを創出、そしてDX化が加速するなど予想以上の移転効果にご期待ください。