前編では、京橋の歴史や現在進められている開発、「TODA BUILDING(以下TODAビル)」の構想、低層階に新設される芸術文化エリアなどについて説明しました。
後編では、戸田建設が進めるアートの取り組み「ART POWER KYOBASHI」について詳しく説明することにしましょう。
アートは、新しいまちづくりにどのような影響を与えるのでしょうか?
また、アートにどんな効果が期待されているのでしょうか?
戸田建設戦略事業推進室京橋プロジェクト推進部の小林彩子部長と武井麻里子さんに伺いました。
アートによるまちの「エコシステム」をつくる
戸田建設が進めるアート事業では、「アートによるまちの『エコシステム』の構築」が提案されています。
あまり耳慣れない言葉ですが、TODAビルの低層部に芸術文化エリアを展開する上では、アート事業を社会貢献で終わらせるのではなく、作品の創作・発表はもちろんのこと、販売等で利益をあげ、しっかり社会・経済の中で循環させることも重要とする同社の姿勢がよく表されています。
芸術文化が持続的かつ自律的に継承・発展して、まち全体の魅力へとつながる
エコシステムの仕組みを説明すると、次のようなものです。
「①~③の3つの機能が循環を繰り返し、そこで育ったアーティストが次世代のアーティストに刺激を与え、芸術文化が持続的かつ自律的に継承・発展して、まち全体の文化的魅力を引き上げていくという新しい挑戦を、アートによる『エコシステム』と表現しました」と、武井さん。
こうしてこの場所からアーティストが育ち、発信し、評価されていけば、京橋を訪れる人々がアートに触れる機会も増え、人々の生活に潤いを与えるとともに、まちの中での芸術文化の広がり・厚みにつながります。
アートはまちの新しい価値を生み、まちはアートを育んでいく相補的な関係にあるのです。
アートは文化的価値・資産を引き上げる
アートの役割とは「文化的価値・資産を引き上げること」と、戸田建設でアート事業を担当する小林部長は話します。
京橋とともに歩んだ戸田建設が新たな価値を京橋に根付かせる
「戸田建設は京橋とともに成長してきました。アートを支援することでまちの文化的価値を更に引き上げていきたいのです」と小林部長。新しい価値という意味では、アートは人の流れの変化にも影響を与えそうです。
京橋に本社がある企業は、どちらかといえば重厚長大系の伝統的な企業が多く、京橋は落ち着いたビジネス街という印象があります。
コロナ禍を経て、いま会社に行くのは仕事をするためだけではなくなりました。仲間と会話したい、日常とは異なる新しい刺激を受けたいなど、オフィスに求めるものが以前と変わってきています。
若者や女性には、ビジネス以外でも活気がある街に人気があります。アートは知的好奇心を刺激するものであり、その刺激を求めて感度の高い人が集まってくるのです。
アートは人を呼ぶ
アートは人を呼び、人がアートを育てます。
まちに開かれた建物で、アートが人を呼ぶことができることを、同社では一度経験していました。
東京2020大会を前に、解体前の旧戸田建設本社ビルで開催した現代美術と建築の展覧会「TOKYO 2021」には、それほど宣伝していないにもかかわらず口コミで広まり、入場するのに長い列ができる日もありました。
アートという新たな魅力。京橋のイメージがかわる
TODAビルでのサスティナブルなアート事業をきっかけに、ビジネスパーソンにとっての京橋のイメージは更新されるのではないでしょうか。
様々な若手アーティストから刺激を受けアートを身近に感じながら、おしゃれにショッピングや仕事後のイベントを楽しむまち。
銀座や日本橋とは色の異なる、新たな魅力に包まれた京橋が誕生しようとしています。
東京駅から徒歩圏という立地は、集客力・発信力に大きなメリットがあります。アートに関心の高い海外観光客の立ち寄りスポットになることも想定できます。
ビジネスパーソンだけでなく、若者世代やファミリー層、さらには外国人観光客もが集まるエリアになれば、京橋という場所の価値はさらに上がるに違いありません。
若手支援でアートを公募
戸田建設のアーティスト支援は、既に始まっています。
TODAビルの建設工事現場では、白い仮囲の上に街並みを彩るアートが掲出されています。
これは、公募プロジェクト「KYOBASHI ART WALL」で、TODAビルオープンまでの期間、半年に1回、全4回にわたって作品を募集しています。
2021年11月から12月の第1回募集には国内外から200点以上の応募があり、アーティゾン美術館の笠原美智子副館長や小山登美夫ギャラリー代表の小山登美夫氏らの審査を経て優秀作品2点が選出され、仮囲に展示されています。
優秀作品に選ばれた作家の個展が、同社が期間限定で運営するスペース「KYOBASHI ART ROOM」で9月から10月にかけて開催されました。
また、仮囲の活用では、「Tokyo Dialogue 2022-2024」と題し、京橋を舞台に「写真」と「言葉」の対話をテーマにした作品制作プロジェクトが10月より展開されました。
変化するパブリックアート
エントランスロビーや広場などの共用空間は、新進アーティストによるパブリックアートの展示に活用されます。
通常一度設置したら恒久的に展示するというケースが多いなか、TODAビルでは、定期的に展示を変えるので、ダイナミックなアートの醍醐味を味わえることでしょう。
「あの〇〇があるビル」と多くの人に認知される場所にしたいそうで、「空間を生かしたダイナミックでユニークな作品を」(小林部長)と期待が高まります。
アートでテナント企業に新サービス
在宅ワークが定着し、各社のオフィスに対する考え方は大きく変わりました。
いままでの仕事をする場所から、企業文化の醸成やコミュニケーションなど、オフィスは「新しい役割」を担うことになりました。
そして、その役割形成の重要な仕掛けとして「アート」への注目が集まりはじめています。
TODAビルでも新たな展開を計画しています。
オフィスフロアのテナントになる企業とアーティストをつなぐ試みで、作品のオフィス空間への貸し出しなどをコーディネートする事業です。
戸田建設では自前のアート担当部署を持つ強みを活かし、アーティストに作品の発表・販売の機会を提供するとともに、ビル内でもアートを循環させていく計画を進めています。
アートという斬新さを保ち続ける仕掛けは、さまざまな可能性を広げてくれるようです。
まとめ
ゆっくりアートを鑑賞するまちに
京橋は玄人好みの落ち着きのある街なので、その良さを生かして、「ゆっくりアートを鑑賞する街にしたいという基本的な路線は変わらないでしょう」と、小林部長は京橋の街を展望します。
京橋には、昔と変わらない江戸箒の製造・販売を続けているお店など、この地に根差した老舗が多数あります。
まさに江戸の職人のものづくりを伝える貴重な文化的資産。大切にしなければならないでしょう。
「アートを媒介にして、ギャラリーや古美術商など様々な人とのつながりができました。京橋の良さをより多くの人に知ってもらう取り組みも手掛けていきたいと考えています」と、小林部長は語ります。
京橋のまちが、なんだかとても面白くなりそうです。
【取材協力】
会社名:戸田建設株式会社
創 業:1881年(明治14年)1月5日
設 立:1936年(昭和11年)7月10日
資本金:230億円(2022年3月31日現在)
代表取締役会長:今井 雅則
代表取締役社長:大谷 清介
https://www.toda.co.jp/