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テレワークでも自律的に働く社員 そのポイントを「歌舞伎」の視点で探ってみた

「はたらく×歌舞伎」シリーズの第3弾。現在のビジネスの課題を、日本の伝統芸能、歌舞伎の視点で解決策を探るという企画。今回は、テレワーク社員の勤怠管理など、企業の課題解決にもつながる内容です。社員がマネージャーの管理下にいなくても自律的に働ける。そんな理想的な社員管理の体制を、歌舞伎役者の「働き方」からそのポイントを探ろうと思います。

歌舞伎役者はなぜ演出家がいなくても自律的に演じることができるのか?

新型コロナウイルスまん延の影響で、それまで遅々として進まなかった働き方改革、特にテレワークが急速に普及しました。

ただその一方で、自宅などにおいても社員一人一人が自律的に働くことができるかといった、テレワーク下で社員の勤怠管理の難しさが問題となっているという一面もあります。

そこで今回は、「演出家」という管理者がいなくても主役から端役まで一人一人が自律的に動き、統一感のある芝居を作り上げるという稀有な演劇、歌舞伎を題材に、テレワーク下での勤怠管理などへのヒントを探ってみたいと思います。

歌舞伎には演出家が存在しない

一般的な演劇には演技プランの考案や指示をおこなう演出家が必ず存在します。しかし歌舞伎には基本的に演出家が存在しません(新作歌舞伎などは除く)。

演技プラン(一般的には「型」と呼ばれ、歌舞伎の各家によってその演出は微妙に異なることがあります)は「しんの役者」(その演目で主役を演じる役者)が決めますが、他の役者に細かい指示を出すようなことはしないのです。

歌舞伎役者は指示されなくても自律的に演じることができる

例えば、一般的な演劇では演出家が居処(いどこ=役者が立っている位置)を決めて指示し、稽古のときにばみって(マーキングすること)おきます。

しかし歌舞伎では自分が舞台全体のどこに立っているかを自ら認識し、周囲との間合いを取り、自分の居処を自分で判断します。ばみることもしません。
それどころか誰からも演技指導を受けることなく、自らの判断で行動し、役を演じます

なぜ歌舞伎役者はこのように、自律的、能動的に行動することができるのでしょうか。

歌舞伎役者が自律的に動くことができる秘密

メンバー全員が芝居全体を理解している

多くの仕事は自分ひとりではできません。それはお芝居でも同様です。

前の人のせりふがあるから自分のせりふがあるのであり、相手の演技に対するリアクションが自分の演技になります。
では自分が関係する前後のせりふや演技だけを覚えておけばよいのでしょうか。

確かにそれでも最低限の演技はできるでしょうが、全ての役者が自律的に動くことは難しくなります。

例えば自分があるお殿様の家来の役だった場合、そのお殿様が舞台中で何番目に偉いかで家来の行動は変わってきます。
一番偉いお殿様の家来なら堂々と胸を張っているでしょうし、末席のお殿様の家来は控えめにしているはずです。

このように自分の目の前の事象だけではなく、登場人物の人間関係や物語といった芝居「全体」を理解していることが重要なのです。

歌舞伎は古典であり、同じ演目が繰り返し演じられることが多いことから出演者全員がその芝居全体を覚え、理解しています。
そのため、指示されなくても自分の役(役割)を把握し、自律的に演じることができるのです。

全員が客観的・俯瞰的な視点を持っている

芝居全体を理解することは自分以外の視点、つまり客観的、俯瞰的な視点を持つことに役立ちます。

そのような客観的・俯瞰的な視点を持っているからこそ、今自分がどこにいるべきか、何をするべきかがわかるのです。

経験豊富なサブリーダーを各所に配置

歌舞伎には演出家はいませんが、しんの役者という芝居全体のリーダーと、部隊長のようなサブリーダーは存在します。

例えば5人の家来がいた場合、そのうちで一番芸歴の長い(または最も出世が早い)役者が「しん」を取ります。
このしんを取るのが部隊長、サブリーダーです。
具体的には座っていて立ち上がる場合、このサブリーダーが合図を出して他の人が一斉に立ち上がります。

また「○○○○と、存じまする」というせりふがあった場合、「○○○○と」と「存じまする」をわけ、「○○○○と」の部分はサブリーダー一人で声を張ってせりふをいい、「存じまする」の部分を全員でいうといった、せりふの分割をおこなったりします。

こうして経験豊富な役者というサブリーダーを各所に配置することによって、しんの役者というリーダーの考えがサブリーダーを通じて末端の役者にまで届くのです。

このサブリーダーが「ハブ」の役割を果たすことで、各グループが自律的に行動できるというわけです。

観客から見られている!という「当事者意識」

歌舞伎は観客の入った劇場でおこなわれる舞台演劇です。

そのため役者一人ひとりの一挙手一投足は、逐一観客の目にさらされており、たとえどんな端役であっても舞台に出ている限り、一瞬たりとも気を抜くことができません。

当然役者たちは「お客様に見られている」という緊張感を持続しながら演技をすることとなり、このことが舞台上で起こることは全て自分事という「当事者意識」につながります。

舞台上で起こることは全て自分事ですから、自律的に行動するのは当たり前というわけです。

歌舞伎が常打ち(※)できるのは分散・自律型システムのおかげ

歌舞伎は常打ち(※1年中休みなく興行を続けること)の演劇です。

日本国内の演劇ですと、一般的には数日から1ヶ月程度の公演が多く、常打ちの公演は歌舞伎のほかでは劇団四季など数えるほどしかありません。

これは映像作品と違ってNGが許されない舞台演劇では、トラブルやアクシデントにリアルタイムで対応しなければならないため、そのような強固なバックアップ体制を構築するのが難しいという事情があります。

では歌舞伎はなぜ、常打ちを続けることができるのでしょうか。

いつでも誰でも「代役」ができる体制が整っている

先程歌舞伎の役者全員が、芝居全体を理解していることをお伝えしました。
これは急なトラブルやアクシデントがあった場合、いつでも誰でも代役ができることを意味します。

最近では市川海老蔵さんが急病で休演した際、片岡愛之助さんが急遽代役を務め、その名を上げたというケースがありました。
歌舞伎では、ある程度良い役で出ている役者は代役ができて当たり前といわれます。
そして代役は若手の役者がジャンプアップするビックチャンスでもあります。

このような強力なバックアップ機能は強い組織を作り、そのおかげで歌舞伎は常打ちを続けることができるのです。

歌舞伎のネットワークはP2P方式を主体にサーバー方式が補完する

誰もが代役を務められるということは、誰もが主役になれるということです。
これはネットワークの形式でいうとP2P方式(ピアツーピア)に当たります。
P2Pとは対等な関係にある端末同士を直接接続して通信をおこなう形式で、特定のサーバーを介さず、各クライアントがサーバーにもクライアントにもなりうる仕組みです。

データの改変に非常に強いブロックチェーン技術がP2P方式で管理されていることからも分かる通り、P2P方式はデータを並列分散するため、トラブルやアクシデントに強いのが特徴です。

ただ歌舞伎ではしんの役者をメインサーバー、サブリーダーをクライアントとするクライアント・サーバー方式も一部取り入れ、芝居として統一感を保つようにしています。

まとめ

同じ演目が何度も演じられる歌舞伎と違い、日々状況が変化するビジネスの世界では、全てのメンバーが全ての業務内容を把握し続けるのは難しいかもしれません。

しかし本人には直接関係のない情報でも共有しておけば、コロナ感染などの急なアクシデント時に代役を務めたり、トラブル時に対応することができる可能性が高まります。

400年を超える歌舞伎の歴史には、数多くのピンチがありました。そのピンチを乗り越えることができたのは、強固で柔軟な組織があったからこそです。

  • 自律性
  • 自分の仕事だけでなく、プロジェクト全体を把握
  • 客観的、俯瞰的に現在地を確認
  • ハブとなる先輩(サブリーダー)の存在
  • プロジェクトに対しての当事者意識
  • 代役が務まる体制はBCP

社員ひとり一人が、自律的に動ける環境、意識、企業文化が備わっていれば、働く場所が異なっていても生産性の高い「はたらく」を実現できるのではないでしょうか。

今回のお話が何かのヒントとなれば幸いです。
弊社、清和ビジネスでは、お客様のテレワーク環境や、企業(部署)それぞれの「働き方」をしっかりととらえたうえで、オフィス改修、リニューアルの提案をいたしております。

現状分析のお手伝いも行いますので、お気軽にご相談ください。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

はたらく×歌舞伎シリーズ

第一弾

歌舞伎の「所作」や「せりふ」でコミュニケーションを上質にする

第二弾

「強い組織づくり」を学ぶ
~歌舞伎の一門が400年以上の歴史を彩る仕組みと成り立ち~


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